第345話 ラーレさんの事と褒賞伝達式
「残念ながら、彼女は『死に戻り』は出来ませんでした」
ああ、やっぱり。
兄様たちが首を横に振って溜息をついた。
「ベナンダンティの『死に戻り』はそう数は多くはありませんが、必ず命を落とした場所の拠点に戻るのです。ですから彼女もルゥガ同様ヒルデブランドの冒険者ギルドに現れるはずでした。それがないということは、彼女はもうベナンダンティではないと言うことです」
「亡くなってしまったのか」
「
ラーレさんのお父様は商社勤めで、彼女は中学からトルコのイスタンブールで暮らしていたという経歴を持つ。
ギルマスはその情報から
「彼女は確かに存在しました。トルコの学校を卒業して帰国し、今は都内の私立高校に通いながら大学受験の準備をしています。特に問題なく過ごしているようです」
ラーレさんがベナンダンティではなくなった理由。
それは多分
ピアスがなくなればベナンダンティではなくなり、
「
ラーレさんについてはこれからも追跡調査を続けるそうだ。
記憶が本当に消えたのか、思い出すことはないのか。
何もなければそれでいいが、調べておくに越したことはないと言う。
「それにしても、あばたーとやらは凄いな。あんなに簡単に一人二役を誤魔化せた」
「でも難しいんですよ、あれ。慣れるまではかなり練習したんです」
兄様たちは意外とスムースに操れるようになったけど、私はずいぶん苦戦した。
どうしてももう一人の自分を上手く動かせなくて、最後はベナンダンティ・ネットの皆さんにシナリオを作ってもらって、なんとか人前に出せるようになったんだ。
◎
その日は『大崩壊』の功労者への伝達式。
秋の除目は春に延期になったが、『大崩壊』で活躍した者たちを労う為に開催された。
壇上には皇帝陛下と皇后陛下。そして宰相であるお父様。
大広間の左右には貴族たちがずらりと勢ぞろいしている。
もちろん私たちも高位貴族よりの中にいる。
そんな豪華絢爛な雰囲気の中、騎士団、魔法師団、衛兵隊や各ギルドの長が順番に呼ばれ、働きにあった褒賞が与えられる。
異例としてシジル地区の顔役も参加している。
こちらは崩壊してしまった街を建て直す助力と、これまでの不遇を詫びるとともに彼らが立派な王都の一員であることを皇帝陛下自ら宣言された。
もう二度とあの歴史を繰り返させない。
未曾有の大災害をきっかけに、たくさんのことが変わろうとしている。
この流れを止めてはならない。
最後に現れたのは冒険者ギルドだ。
今回の一番の功労者、ギルマスこと『無量大数』の位階持ちの英雄マルウィン。
そして数十年ぶりの数字持ちの若者たち。
つまり、
私たちとよく似た彼らに一瞬だけ騒めきが起きた。
「大変ありがたいことではございますが、報奨の件、辞退させていただきます」
お父様が読み上げたギルドへの報奨金について、ギルマスは受け取らないと言う。
「この度の災害について、依頼達成の報酬はすでにいただいております。それ以上のご厚意を受け取ることは冒険者としての矜持が許しません。どうぞご理解ください」
冒険者は決められた報酬以外は受け取らない。
手作りの菓子や料理であれば問題ないが、増額されたものは受け取らない。
たとえそれが感謝の気持ちの表れだとしても、だ。
「此度の災害、王都に住む者全ての力で乗り切りました。冒険者ギルドにいただけるのであれば、陛下からのお言葉で十分でございます。それがなによりの我らの誇りとなりましょう」
その潔さに居並ぶ貴族の間から感嘆の声が上がる。
他の表彰者と違い冒険者の五人は跪いても頭を下げてもいない。
皇帝の御前で不敬ですらあるのに、その立ち姿は好感を持てるほど美しいと受け入れられたようだ。
・・・私たちの
もちろん数字持ちの冒険者の立ち位置や礼儀作法の在り方は、予めた皇帝陛下の御名において周知させてもらった。
これで冒険者としての私たちを囲い込もうとする貴族や商人はいなくなるはずだ。
「ルー ! 」
「ルチア ? 」
式典が終わり皇帝ご夫妻が退出された。
ざわめきとともに表彰者の移動が始まる。
最後尾の『ルーと素敵な仲間たち ( 仮 ) 』が広間の真ん中に来たところで、私は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます