第320話 クリスマス記念SS・剛腕サンタさんの伝説

 今日はクリスマスだ。

 残念ながらこちら夢の世界にはクリスマスはない。

 当然だけどバレンタインデーもない。

 でも豆まきと七五三のお祝いはある。

 日本人のベナンダンティがいるからだけど。


「そもそも特定の神がいないからなあ」

「教会や修道院や神官さんはいるのに ? 」

「神という概念はあるんだがな。教義とか創世神話なんかもない。乙女ゲームの世界だから仕方がないか」


 兄様やギルマスの説明だと、この世界は女神の一人がゲームをリアルで楽しみたいから作ったんだって。

 だからいろいろとチョロくて、私たちの一人二役がばれないのもそのせいじゃないかと言われている。


「うーん、でもサンタさんが来ないのはつまらないですね。一年良い子にしていたらご褒美があるって素敵じゃないですか」

「サンタクロースか。俺の家でそういう習慣はなかったな。クリスマス・イブに鶏肉たべておしまいだった。ディーはどうだ」

「うちも同じですよ、兄さん。クリームべったりのケーキの上のチョコプレートの取り合いが思い出です」


 うちは大抵親がいなかったから、祖父母と一緒に過ごしてたなあ。

 ケーキはいつもフルーツやナッツたっぷりのごっついやつ。

 兄様たちは兄弟がいるのかな。

 きっと賑やかで楽しいお家だったんだろうな。

 うらやましい。


「サンタクロースか。世界中の子供にプレゼントを配るとか、気のいいじいさんだな」


 エイヴァン兄様が片口からお猪口に清酒を注ぐ。

 ヒルデブランドはワインは外からの買い付けだから高い。

 日頃はお手軽な日本酒だ。

 もちろん私とアルは飲めない。


「サンタクロース。聖ニコラオですね。祝日は十二月の六日ですよ」

「ん ? 実在していたのか、モデルの聖人」

「ええ、無実の守護者と海の聖人とか呼ばれてます」


 さすがミッションスクールの生徒。

 兄様たちが感心したように見るので、久しぶりで褒められて嬉しくなった。

 普段はお小言ばかりだもん。


「十二月二十五日を生誕の日に決めたニケアの公会議にも出てます。もっとも丸くなったのは年を取ってからで、若い頃は血の気の多い所もあったんですって」

「・・・」

「論敵をボコボコにして謹慎処分くらったりとか、初期のキリスト教ってめちゃくちゃ熱かったらしいですよ」

「・・・ルー、それを向こう現実世界で言うのはやめとけ。サンタクロースのイメージが崩れる」


 え、なんで ?

 別に嘘は言ってないんだけど。


「夢は夢のままにしておけ、な ? 」

「あ、ルー。サンタはいないけど、ダルヴィマール領にだけナマハゲはいるよ。子供のところにしか来ないから、僕たちは見れないけど」


 いるんだ、ナマハゲ。

 って、なんでみんな私のこと可哀そうな目で見るの ?

 私、何も悪いことしてないよね ?

 エイヴァン兄様がデザートを追加してくれて、ディードリッヒ兄様がよしよしと頭を撫でてくれる。

 アンシアちゃんとケーキを半分こしながら、なんとなく納得できない聖夜は更けていった。 

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