第160話 復活のルー
スッキリ。
なんていうか、王都に来てから一番のスッキリ。
なんか名
あいしゃるりたーん
あいるびーばっく
あれ、どっちも同じ意味だよね。
言い方次第でずいぶん受け取る感じが違うな。
・・・どっちも未来形だから使えないわ。
ギルマスに助けてもらって、でもすぐにはダルさが消えなくて、
ちなみにいつもならドアを開けて寝室に入るんだけど、今回はベッドの上で目が覚めた。
うん、新鮮だ。
「でも、よかった。ルーが元気になって」
「心配かけてごめんね、アル。呪いだなんてわからなかった。嫌なこと言われてるから調子が悪いって思ってたの」
みんなで朝ごはんを食べながらこれからのことを話し合う。
「屋敷には一週間くらいは戻らないほうがいいだろう。今はあちこちの家からお見舞い客がやってきている。記者も集まっているから、変に姿を見られない方が良い」
「なんでそんなに広まったんでしょうね」
なんでもシジル地区からきた女の子が私が病気だと言いながら歩き回ってたんだって。
そりゃあ確かに広まるな。
ちなみにその子はお方様がちゃんとお家まで送ってあげたそうです。
お方様、初シジル地区。
ちっちゃい子目線でおばちゃんと呼ばれても腹を立てず、汚れた少女を平気で抱っこする。
いつもの毅然とした宰相夫人とは真逆な態度に好感度アップ。
今は社交は一切断って、倒れた娘に付き添っている。
さすが宰相を陰で支える
それと相反するように例の御婦人の株が下がっている。
「ところでルー、ずっと調子が悪かったそうだが、それはいつからだね ?」
「えっと、乱入夫人に出会ってからですね。毎回毎回わかりやすい嫌みを言ってくれるんで、その場では良いんですけど帰宅してから心が痛い痛い」
ふぅむとギルマスがディードリッヒ兄様に目を向ける。
すると兄様は姿勢を正して私に向かう。
「ルー、次からはどんなに小さな体調不良でも俺たちに言うんだ。今回は屋敷の中だったからいいが、依頼の最中なら命とりだぞ」
「そうだよ、ルー。今回もそうだが、予めわかっていれば避けられることもある。この程度と思わずにちゃんと報告しなさい。パーティは家族なんだからね」
肝が冷えたぞというディードリッヒ兄様にごめんなさいと言って、食後の
多分あちらはまだあきらめていないはずだから、毎回呪いの種をまき散らしてくるそうだ。
標的は私だけど、兄様たちにも少しづつ呪いが
だから毎朝飲んで耐性をつけておくようにギルマスに言われている。
最初の時にあんなに美味しいと思った聖水は、解呪された今はただの水の味になった。
私の冷却魔法で冷やしてから飲んでいる。
触媒にされた
だが、問題の術者が誰かわからない。
ゴール男爵のところにいたあの男かと思ったら、そちらはピンピンしているそうだ。
少なくともあちらの関係者ではないようだ。
お茶会や夜会に出てこない誰かかとも思われたが、私の病気でそういう集まりが中止されていることが多い。
何しろお方様は私につきっきりという設定だし、グレイス公爵夫人は自分のお茶会で体調を崩したからと責任を感じて外出などを自粛している。
高位貴族の二人がこういう状況なので、皆さんよほど親しい人のところでないと訪問しない。
社交によい季節なのに、申し訳ない。
そんなわけで今だに黒幕はわからないのだ。
「色々考えても仕方がない。せっかく元気になったんだ。ギルドで依頼を受けてごらん。どうせ一週間は戻れないんだろう。今のうちにヒルデブランドでは経験できない大型の討伐を堪能しておいで」
と言われたものの、本日は討伐系は小型の物が多かった。
そういうのは駆け出し冒険者に回すので手をださない。
え、私も駆け出しだろうって ?
上位に片足突っ込んでいるし、兄様たちとくっついているから上位枠になるんだそうだ。
「今日は君たちが受けられる依頼はないねえ。仕方がない」
ギルマスは受付横の黒板にサインした。
「午後一時から二時間、訓練所を貸し切りにしたよ。何日か空いたけれど、軽く訓練しようか」
ニッコリと笑うギルマスの笑顔はやたらさわやかで明るかった。
もちろん、実際の訓練が全然さわやかでも軽くもないことを私たちは知っている。
◎
ルーたちがおばあさんの家の棚を直すだけの簡単な依頼を受けている頃、グランドギルマスは黒板の文字を見つけた。
「これを書いたのは誰かな」
「あ、それでしたら臨時職員のマルウィンさんですが、何か ?」
グランドギルマスはしばらく黒板を眺めていたが、案内人の女性に指示を出す。
「依頼のない者は午後一時に訓練所の観覧席に集合。ギルドは閉鎖して職員も全員参加じゃ。来ない奴には罰依頼があると付け加えておけ」
参加者名簿を作っておくようにと言ってギルマスは執務室に戻っていく。
案内人たちは何を言っているのだろうと顔を見合わせたが、グランドギルマスのいうことは絶対なので、バタバタと受付を閉めていく。
もう大体の依頼受注は終わっているから問題ない。
大きな紙にグランドギルマスからの通達を書いて、ギルドの入り口や依頼書掲示板に張り出した。
また休日中のパーティーの本拠地、宿にも人を走らせる。
教会に頼んで『グランドギルドに集合』の合図の鐘を鳴らしてもらう。
昼前の王都グランドギルドが慌ただしくなった。
その頃私たち『ルーと素敵な仲間たち ( 仮 ) 』は、依頼主のおばあさんのお家のお掃除をしていた。
「すまないねえ、棚の修理を頼んだだけなのに、家の掃除までしてもらって」
「せっかくですから、他にも直すところがあったら言ってくださいね。背の高いのが二人いますから、普段手の届かない所もダイジョブですよ」
「冒険者の人たちはこういう依頼はあまり受けてくれなくてね。ヒルデブランド出の人たちだけだよ、こういった生活系に来てくれるのは。ありがたや、ありがたや」
なんか拝まれているんですが。
ヒルデブランドでは討伐が偉いとか、生活系はクズだとか、そういう差別はないからなあ。
冒険者になったんだから、街の為に働くのは当然という考えだから、今日そこにある依頼は根こそぎ受けるのが当たり前。
午前中に依頼用の掲示板が空になっていないのは恥であるとはギルマスの言だ。
アルも延々とラスさんのところで棒付きキャンデー作ったりしてたしね。
私もお弁当売ったりするお手伝いしたし。
「そこに孫が作ってくれたクッキーがあるんだよ。たくさんあるから半分持っていっておくれ」
「わあ、おいしそう ! ありがとうございます。後でみんなでいただきますね」
けれど、そのクッキーは一欠片も私の口に入ることはなかったのだ。
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