第159話 呪われてる私は最悪です 誰か代わってください
一か所、書き間違いがあります。
見つけた方、コメント下さい。
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さて、貴族街での可愛らしい騒ぎが一息ついた頃、エイヴァンはまだグレイス公爵邸にいた。
「するとルチア姫は回復の方向に向かっているということか」
「ああ、ただし、体ではなく魂を傷つけられている。その影響はさすがにわからない。すでに失われた技術だからな。古老の一人が冒険者だった若い頃には当たり前にあったらしいが」
侍従姿の時には固辞した着席だったが、冒険者姿になった今、エイヴァンは当たり前のようにソファで寛いでいる。
使用人のトップである家令と侍女頭はその態度の差に驚いてはいるが、さすがに表には出さず控えている。
「エリアデル公爵夫人の態度には正直腹が立っている。だが、事情が分かった今、俺たちは彼女は被害者の一人だと思っている」
「被害者 ?」
公爵家の三人は意味が分からないようだったが、エイヴァンの説明を聞いてある程度は理解が出来た。
「つまり、エリアデル公爵夫人は利用されただけだというのか」
「ああ、終いの大夜会の後なにがあったかはわからない。だが、春までの間に公爵家に入り込んだものが夫人に何かを仕込んだのだろう。そうでなければ、ここまで夫人に対する評価が違うということはないだろうし、今までとの差異があるからこそ周りの者は動けないのではないか」
「そうね、以前の優しく穏やかな彼女のことを忘れられないご婦人も多いと思う。彼女の言うことなら正しいのだろうと信じてしまうお嬢さんもね。だからこそルチアさんがひとりぼっちになる状況になったのだし」
近頃の若い娘は自分の頭で考えるということもしないのかとエイヴァンは肩をすくめる。
「夫人は多分、呪い返しで寝込んでいるはずだ。そしてもう一人、呪いを仕掛けた術者本人も。今朝から具合が悪くなった人間が十中八九関係者と見ていい。貴族ではないかもしれないし、使用人ですらないかもしれないが、貴族街の方は任せていいか」
「ああ、こちらは我らの方が調べやすいだろう。城下町の方は頼む」
「助かる。ダルヴィマール騎士団だけでは手が追い付かなくてな」
侯爵家の騎士を勝手に使っているのかと近衛騎士団長は呆れる。
「動かしているのは就労中以外の奴だ。それにこちらから頼んだわけじゃない。力の差を思い知らせてやったら、あちらから手伝ってくれるようになっただけだ」
「力の差、な」
ところで、とバルドリックは聞く。
「アンシア殿はいかがされている」
「・・・この期に及んで彼女が気になるか。アンシアは実家に戻している。姫のお傍に置いておくと食事はしないわ眠らないわ。体を壊す。今は引き離しておくべきとのお方様の判断だ」
ルチア姫命のアンシア殿だ。さもあらん。
バルドリックは主を心配しているだろう想い人の心痛を思う。
「では正式な依頼はグランドギルドではなくヒルデブランドのギルドマスター宛に出してくれ。この問題が明らかになると面倒くさいのでな。それとエリアデル公爵夫人にはこっそり聖水を飲ましておけ。効くかどうかはわからんが、毒にはならないだろう」
そう言って立ち上がると、再び光の渦がエイヴァンを包む。
あっというまに冒険者は消え、ダルヴィマール侯爵家のお仕着せを着た青年侍従が現れる。
「・・・面白い魔法だな」
「恐れ入ります。ヒルデブランドの若手冒険者が開発いたしました」
それではと青年は上品に頭を下げ、ダルヴィマール侯爵家へと帰っていった。
「冒険者の時と差がありすぎるな、あいつは」
「ちゃんと使い分けているのね。素晴らしいわ。冒険者の時は豪胆に、侍従の時は・・・。若い子が騒ぐわけだわ」
さて、エイヴァンの話が本当なら、そろそろエリアデル公爵夫人が病に倒れたという話が舞い込むはずだ。
明日にもお見舞いに伺おう。聖水入りのスープを持って。
矢面に立たされている彼女が被害者なのであれば、この先なんとか名誉回復の道を残しておかなければ。
ここから先は夫たちには無理だろう。
男の戦いが剣ならば、女の闘いは扇子とおしゃべり。
根回しとさり気ない気遣いと。
グレイス公爵夫人の頭の中ては、物凄い勢いで計画が練られていった。
◎
体が重い。
動かない。
腕も上がらない。
おかしいだろう。
週末の朝、
合鍵を使って入ってきた祖母は私の容態を見て、迷わず119番した。
「ルー、僕がわかる ?」
「・・・アル・・・ 」
わかる、わかるよ。
でも体がいう事をきかないの。
おしゃべりできる状態じゃないのよ。
目も開けられないの。
でもアルがいるってことは、ここはアルのお父様の病院よね。
一体なんでこんなことになったのか思い出してみる。
エリアデル公爵夫人が乱入するようになってから、なんだか体調が崩れるようになった。
でもそんなこと、皆には知られるわけにはいかない。
笑顔で乗り切ってきたのだけれど、昨日はダメだった。
何かに絡めとられるような感覚がした。
グレイス公爵邸の馬車で送られて、なんとか玄関ホールに入ったけれど、出迎えてくれたナラさんやメラニアさんの顔を見たら、ホッとしたのか力が抜けていった。
ディードリッヒ兄様に抱え上げられたのはわかった。
力持ちだなあ、兄様。
こんなに重いのに。
軽々だね。
目を閉じたらどす黒いものが周りで
見たくなくて目を開けようとするけれど、瞼も重くて開けられない。
やばい、やばいよ。
「『ヤバイ』なんて言葉、淑女になるアナタ方は使ってはいけまセン」
入学したての中等部の一年生が怒られてたな、スペイン人のシスターに。
でも、今これ以上ピッタリの言葉が見つからない。
日本人の言葉を想像する力ってすごいなあって、下らないことを考えていないとこの重さに耐えられない。
腕がチクチクする。
採血されたな。
なんか機械の中を通されたような気がする。
色々やられてるけど、わかるんだ。
これ、病気じゃないよ。
魔法に近い ?
でもちょっと違う。
ググっと引っ張られるような感じがして目を開けると、アンシアちゃんが見える。
あれ、
もう勝手にあれこれ検査を受けさせられているのがわかる。
アルが手を握ってくれている。多分回復魔法を使ってくれているんだろうけれど、問題はこの真っ黒いモヤモヤだよ。
回復魔法を使っても効かないよ。
ねえ、この黒いの取って。
そう言いたいけれど、もう何をする気力もない。
どのくらいたったのだろう。
私は今
もう、どうでもいいや。
そんなやり投げな気持ちになったときだった。
ピチョン・・・。
額に何か冷たいものがあたった。
すると私の周りにあった真っ黒いモヤモヤが一気に体の中に入ってきた。
死ぬっ ! 死んじゃうっ !
息が出来ない。
心臓がバクバク言ってる。
「 ❆4&!# 」
誰か何か言ってる。
ギルマスの声かな。
でも聞き取れない。
唇に何か当てられた。
水 ?
一口飲んでみる。
あ、美味しい。
喉が潤って気持ちいい。
これは一滴たりとも飲み残すなんてできない。
上手く口が動かない。
ゆっくりゆっくり飲む。
最後の一口を飲み終わった時、私の体の中で暴れていた黒いモヤモヤが、凄い勢いで出ていった。
体が軽い。
温かい。
うっすら目を開けると、アルとアンシアちゃんが私を覗き込んで何か言ってる。
兄様たちとギルマスがいる。
そうか、私、ギルマスに助けてもらったんだ。
さすがギルマスだ。
みんな何か言ってるけど、良く聞こえない。
だから、お礼だけは言わなくちゃね。
「ありがとうございます・・・ギルマス」
私の意識がはっきりしたのは、その日の夕方になってからだった。
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