第83話 王都はヒルデブランドよりばばっちいらしい
アンシアちゃんを探す。
私はそれに必要なものを持っていない。
「ギルマス、この辺りの地図はありますか。私は街の中しか知らないから、具体的にどこと指摘できません」
「そういえばそうだったね。ではこれを」
ギルマスが画用紙ほどの大きさの地図を持ってきてくれる。
真ん中にヒルデブランドの街。
街を囲んで流れる川。
西側には森林地帯。
東側には何も書かれていない。
アンシアちゃんを探すってどうしたらいいのか。
私は地図をさっと撫でてみる。
アンシアちゃんのツンデレな雰囲気をイメージしながら、街の外に手をかざしていると、西側の方がなんだか温かく感じる。
「なんだか、この辺のような気がします。とても暖かい」
「西門に捜索隊を待機させろ ! 大至急だ !」
バタバタと人が動く。
待って、この辺って範囲が広すぎる。
もっと確実な場所、アンシアちゃんがいる場所を特定しなくちゃ。
でもどうやって ?
直接行かなきゃ見つからないけど、そんな時間はない。
イメージしなくちゃ。イメージ。
鳥 ?
だめ。
空しか飛べない。
森の中では役に立たない。
馬、人力車、だめ、自由に動けない。
もっとこう、滑らかに、上にも下にも自由に動けるもの。
狭い所も行けるやつ。
ええっと、そう、いつも見てる番組があるじゃない。
沸騰してる島とか、ぼっち一軒家とか。
あれはどうやって撮影してる ?
あれだ !
◎
森が続いている。
変だな。
さっきまで川の側を歩いていたのに。
またやっちゃったかな。
あたしってば猪突猛進っていうか、一度に二つ以上のことが出来ないんだよね。
そのかわりやってる一つのことには他の追随を許さない自信はある。
それじゃダメだってのはわかってるんだけどさ。
魔法学園の卒業式で、私だけ就職先がなかった。
前代未聞っていうか、あり得ないことだった。
担任の先生が式の後、就職関係の先生に噛みついていた。
担任だけじゃない。校長先生もだ。
「あなたは一体なにをしていたんだ。首席卒業生がどこにも働く場がないなんて、どういうことだ」
「そう言われましても、あの生徒の履歴を見るとどこも首を縦に振ってくれないんですよ。私だってさがしたんです。でも、出生地を見て、信用できない、働き始めたら問題を起こすんじゃないかって、断られるんですよ」
ほら、これだ。
在学中もあったんだ。
班での演習で誰かの家に集まるとき、あたしは絶対呼ばれなかった。
もちろんあたしが呼んでも誰も来なかった。
ごめん、親が呼んじゃだめだって。
行っちゃだめだって言われたから。
じゃあ、最初に言いなよ。
終わってから言うって何なのよ。
そしたら休日になんて集まらないで、学校で放課後打ち合わせとかできたじゃん。
シジル地区はスラムで汚くて泥棒の集まりなんだって。
ふん、あたしに言わせりゃ同級生が住んでるところのほうがずっと汚い。
あたしのご近所さんは朝ごはんの前に向こう三軒両隣の掃除をするから、いつだって道はピカピカだ。
ゴミを道に捨てるのもいないし、落とし物があったら冒険者ギルドに持ってく。
魔法学園に通って見て、みんなが平気でポイ捨てしたり、落とし物を自分のものにしたりするのでびっくりした。
届けないのって聞いたら、シジル地区が何言ってるんだって顔された。
あたしたちより悪いことをする人たちにバカにされるなんて納得がいかない。
それに同じようなことなんて絶対したくない。
だから、二回目から班演習は断って、一人でやることにした。
幸い校長先生と担任の先生がわかってくれて、なんとかやり遂げることができた。
とにかく頑張った。
誰よりも頑張った自信がある。
三年間で10冊。
あの分厚い教本を全部覚えた。
発動だって六割は出来るようになった。
魔法師団への入団は確実って言われてた。
でもその結果があれだ。
グレなかったあたしを褒めてほしい。
引きこもってるあいだ、担任の先生や校長先生までが心配して訪ねてきてくれた。
王都の人がシジル地区に入るのは難しい。
だから街の門のところでの伝言だったけど、あたしの働く場所を探してくれてるらしかった。
その才能を生かさないなんてもったいない。なんとか活躍できる場を探すから待っていてくれ。
いい先生たちだったな。
でも王都で働いてたら、きっとどこへ行ったって同じ扱いなんだよ。
いつまでも部屋にいても仕方がないから、冒険者ギルドで臨時の雑用職員をした。
そしたらあたしと同じくらいの年の子が
それって普通は二か月くらい、早くても一か月半はかかるって聞いてたけど、それをたった三週間でやったって、どんな奴なの ?
ヒルデブランド。
この国の宰相様のお里だ。
王都からは馬車で二週間もかかる田舎。
そこならシジル地区のこと知らないかな。
王都出身とだけ言えばやっていける ?
魔法師団は無理でも、冒険者として一流になれば、無理に学園に通うお金を出してくれた両親に恩返しができるかもしれない。
そう思ったあたしは、溜めていたお小遣いとギルドで稼いだお金を持って王都から旅立った。
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