第71話 小さな親切 大きなお世話
その日はもう依頼もなく、かと言ってなにもしないのも何なので、街の路地のごみ拾いをしてまわった。
途中アンシアちゃんの部屋に行って様子を見る。
よく眠っているようだ。
雑貨屋さんに寄ってバスケットと直径5センチくらいの籠をいくつか買う。
これに柿ピーを詰めて、明日市警本部に持っていこう。
途中、街の子供たちのまとめ役の子に出会う。
「ひさしぶりだね、お姉さん」
「ホント、久しぶり。元気にしてた ?」
「うん、お姉さんも元気そうだね」
そう言って私の荷物をヒョイと持つ。
「あら、いいの ?」
「ご婦人に荷物を持たせるのは、男のコケンにかかわるってお父様がおっしゃってたから」
コケン、沽券ね。難しい言葉を知ってるなあ。
「ねえ、あの人どうしてる ?」
「あの人って ?」
「新しくきたフカさんだよ。お姉さんの対番なんでしょ」
アンシアちゃんのことか。
「ちょっと体調崩して休んでるわ。今日明日はお休み。チュートリアルは元気になったら再開ね」
「ふーん、あのさあ、気が付いてる ? あの人がいる時、あまり街に人がいないって」
「え ?」
人がいないって、そんなこと・・・。そういえば誰かに聞こうにも人がいなかったり、忙しそうにしていたり。手助けを頼めるような感じではなかった。
もちろんアンシアちゃんが自分一人で解決するって人を頼ろうとしなかったってところもあるけれど。
「お姉さんのこと嫌いだって言ったんだって ? お姉さんは街の人気者だから、街のみんなは怒っちゃったんだよ。それで邪魔はしないけど、出来るだけ近寄らないようにしようってことになったわけ」
「はああぁぁっ ?!」
素っ頓狂な声に待ちゆく人たちが立ち止まる。
「ななななにそれっ ! 知らないわよ、そんなことっ ! 嫌いなんて言われてないしっ !」
「でも冒険者のおじさんたちが言ってたよ。ビシッと指さして宣言したって」
「ないっ ! ないってばっ ! それ、全然違うからっ !」
ゼーゼーと脱力する私に顔役の少年はあれぇという顔をする。
「違うの ?」
「違うわよ。確かにライバル視はされてるけど、それは立派な冒険者になろうという宣言だし、ツンツンして見えるのはチュートリアルに真剣に向き合っているからよ」
「うーん、お姉さんたちが手をつないで走ってるのを見た人たちもいるし、デマなんじゃないかって言う人もいるけど、最初にきっぱり断言されちゃったから、信じるしかなかったんだよね」
「一体誰よ、そんなこと言ってたのは」
少年は私の耳に顔を近づけてコソっと教えてくれた。
「あいつら・・・絶対許さないっ !」
「お姉さん、正気に戻って」
「うふふ、私は正気よ。ええ、ここしばらくで一番冷静だわ。ありがとう、坊や。今度何かごちそうするわね」
「お姉さーん、僕の名前はマクシミリアンだからー。坊やじゃないからねー」
走り出した私の後ろを坊や、いや、マクシミリアン君の声が追いかけてくる。
さすが良い所のお坊ちゃまだ。お貴族様みたいな名前だな。
◎
「全員、そこになおれっ !」
ギルドにたどり着くと、ちょうど冒険者たちが戻ってきて報告をしているところだった。
当然だがお目当てのパーティーもそこにいる。
私は先日覚えた『お取り寄せ』の魔法で
私よりも何歳も年上の男たちが一瞬固まり、一斉に正座する。
ふん、どこかで見た風景だ。
「聞いたわ。アンシアちゃんの悪い噂を流したって」
男たちはしまったみたいな表情をする。
そうか、やっぱり身に覚えがあるんだ。
「私の時もそうだったけど、この街の冒険者ギルドには
「・・・」
「生まれ育った街からたった一人遠いこの街まで来て、不安で一杯な中で精一杯やってる女の子の邪魔をするって。どれだけ心がねじ曲がっているの」
「・・・」
「シャキシャキ白状しなさいっ !」
男たちはビクッと身を竦すくませる。
「あれって、なんて武器だ ?」
「ハルバートに似てる・・・いや、パルチザンか」
「物凄く切れ味が良さそうなんだが」
後ろで他の冒険者たちが何かしゃべっている。こいつらも同罪か。
キッと睨みつけると黙る。
「俺たちはただ、ルーちゃんを応援しようと・・・」
「だってあいつ、めっちゃ偉そうだったし」
「ルーちゃんに喧嘩売るなんて許せなかったし」
「言いたいことはそれだけかあぁぁぁっ !!!」
サッと彼らの頭上を薙ぎ払う・・・真似をする。
しまった。何人かの頭頂の髪が消えてトンスラになる。
あ、トンスラって剃髪の事で、ずいぶん前に廃止されたけど、カトリックの修道士になる人が頭の上の髪を剃ることね。
ザビエル禿げって言ったらわかるかな。
まあ、若いからすぐに生えてくるだろう。
「私の為とか言って、単にアンシアちゃんが気にくわなかっただけでしょう。ちょっと観察すれば単に粋がってるだけだってわかるでしょうに。第一彼女が冒険者として昇級しないと、私は
全員あっと口を開ける。
間抜けな顔だ。
こいつら何も考えてなかったな。
「今、この瞬間からの一週間。アンシアちゃんの誤解を解いて回ること。いいわねっ !」
男たちはコクコクと無言で頷く。
「もし言いつけを守らなかったら、私、踊るわよっ !」
ひいっという声がする。
「あなたたちの前で踊るからねっ ! それが嫌なら今すぐ動けっ ! さあっ、行けっ !」
私が踊ったらどうなるか。
地は割れ空から何か振ってくれるのか。
そんなことはないが、とりあえず脅しておく。
「ここにいる全員に言っておくわ。私の妹分をイジメたらただじゃすまないからねっ !!!」
これで街の人が理解してくれたらいいんだけど。
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