第59話 厄介がネギしょってやってきた

「登録希望者かね ?」


 登録希望の少女が吠え続けているところに、タイミングよくギルマスが二階から降りてきた。ビーさんが急いで今までのことを説明してくれる。

 彼女の住んでいたところではギルマス面接がなかったことを聞くと、穏やかなギルマスの額にしわがよる。


「王都から来たと言ったね。君のいうギルドはどこの地区にあるんだい」

「生まれたところよ。場所は、その・・・どこでもいいじゃない。冒険者になるのにそんなこと必要なの ?!」


 うーん、それはそうだけど、と元の優し気な表情に戻ったギルマスが言う。


「とにかく上においで。登録はここではなくギルドマスターの執務室でやるんだ」

「受付で登録するんじゃないの ?」

「受付はあくまで依頼を受けたり完了報告をしたりする場所なんだ。買取もここではなくて隣の建物だよ。さ、おいで。早く登録したいんだろう ?」


 王都のギルドとずいぶん違うのねと言い、少女は不貞腐れた顔でギルマスについて階段を上がっていく。

 そしてギルマスの執務室の扉が閉まる音がすると、部屋にはホッとした空気が流れた。


「なんともすごいのがやってきたな」

「係わりあいたくないやつだと思う。そうだろう、兄さん」

「私、バカ女だったんだ」

「「「絶対違う !!」」」


 ホールにいた人たち全員が否定してくれた。よかった。私、バカじゃない。


「それにしても、ギルマス面接がなかったり案内人が冒険者登録をしたり、王都のギルドはどうなっているんだ ?」

「半年前に僕が行ったときは、ここと同じでしたよ」


 ディードリッヒ兄様の後ろからアロイスがヒョイと顔を出した。


「来ていたのか。遅かったな」

「文化祭の準備で忙しくて、予習復習おわらせたらこの時間に。しばらく来るのが遅くなります」

「お、懐かしいな。俺の時は焼きそばとか売ってたが、アルはなにやるんだ」

「舞台です。ミュージカルやります」


 へえぇ、アルが歌ったり踊ったりするの ?


「残念ながら裏方。著作権の交渉とか、音源確保とか。当日は何もすることがないんだよね」

「残念。見たかったな、アルの舞台姿。あ、私の学院祭には来てくれる ? 校長様が命の恩人だから招待しなさいって。招待状が来たら渡すわ」


 絶対行くよ。来年はクラス内オーディション受けようかな、とみんなで小声でヒソヒソしていたら、二階からギルマスが下りてた。


「やあ、新しい不可ふかを紹介するよ。さあ、自己紹介して」

「王都から来たアンシアよ。王立魔法学園を首席で卒業したばかりよ。世話になるわ」


 全然世話になる気がなさそうな顔で新人不可ふか、アンシアは鼻をならした。


「と、いうわけで、彼女の対番はルー、君だ」

「わ、私 ?!」

「対番 ? 何、それ」

「「え ?」」


 対番も知らないのかと案内人をはじめ、ホールの冒険者一同顔を見合わせる。仕方ないのでギルマスが優しく説明してあげた。


「そんなもの必要ないわ。第一チュートリアルってなによ。登録したらすぐ仕事でしょ」

「チュートリアルを終えないと正式な冒険者にはなれないし、対番抜きでのチュートリアルは認めらない。ちなみに一年間不可ふかのままだと冒険者資格は失効になるからね」


 アンシアはブツクサ言いながらも仕方がないと受け入れた、ように見えたが気のせいだった。


「言っとくけど、手出し口出しは無用よ。あたしは一人で十分やれるんだから。あなたは着いてくるだけでいいわ」

「はあ、それでいいならいいけれど、とにかくよろしくね。私はルーよ」


 握手しようと右手を出したら、思いっきり振り払われた。


「慣れあう気はないわ。それとあなたが疾風のルーね。驚異の大型新人なんて王都で聞いたけど、待ってなさい。すぐに抜かしてていになってみせるから」


 いえ、先ほどてい飛び越してへいになったばかりですとは誰も言わなかった。

 わざわざ教えることでもなく、になったばかりと誤解させておこう。


「では早速チュートリアルを開始してください。夕の五つの鐘がなるまでが活動時間です。鐘が鳴り終わったら途中でも止めてギルドに戻ってください。ではいってらっしゃい」


 案内人はめちゃくちゃ不機嫌な様子で私の時と同じようにラスさん宛の荷物と指示書を渡す。あれ、地図は渡さないでいいの ?


「さあ、付いてきなさい。ノロノロしてるとおいていくわよ ! 足手まといにだけはなってほしくないわね」


 その瞬間、ギルド関係者一同が再び結束した。

 何人かの冒険者が慌ただしくギルドを出ていく。の市民にげきを飛ばすためだ。

 今回は不可ふかに味方する市民はいない。そして市警も。

 新人少女アンシアは一時間もたたずにヒルデブランド全体を敵に回した。


「エイヴァン、ディードリッヒ、ちょっと上に来てくれないか。アロイス、ラスさんのところに先回りしてくれ。ついでに腰が痛いと言っていたから、なにか手伝ってあげておくれ」


 ギルマスは先ほどの穏やかな顔ではなく、かなり真剣な顔でベナンダンティ達に声をかける。

 二人はいつになく険しいギルマスの表情に、黙って後についていった。 

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