第57話 一方そのころ現世では ~ 校長室へのご招待 ~
奇数日の朝の更新を目指しています。
たまに遅れます。
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帰りのホームルームが終わった後、担任の先生に呼ばれた。
「ついていらっしゃい」
うわあ、これってお説教コースじゃない ?
以前カラオケでオールしたのがばれた先輩がこんな感じで呼ばれたってきいたことがある。
でも変だな。
呼び出される理由に覚えがないのだけれど。
「1年2組の佐藤を連れてまいりました」
担任に促されて校長室に入ると、そこは赤絨毯の花道。
左右には私と関係のある先生方が並んでいる。
我が校の校長呼び出しは、公平を期すために関係教師全員と保険室の先生が同席することになっている。
だから狭くもない校長室に担任に学年主任、副学年主任と副担、主要教科の先生方に体育とか音楽とか家庭科とか英会話とか。部活の顧問にコーチまで、総勢17人の学校関係者が集まっていた。
先生方の視線を痛いほど感じながら、私は正面の大型の机の前まで進む。
そして右足を引いて小さく膝を折る。カーテシーと言われる礼の簡易版だ。
「お呼びと伺いました。1年2組の佐藤です。校長様」
校長先生ではない。校長様だ。そしてシスターである。
「ようこそ。この夏は大変でしたね。元気に登校できるようになって嬉しいですよ」
「おそれいります。先生方にもご心配おかけしました」
校長様はほっそりとした笑顔が素敵なおばあ様だ。ヤンチャした生徒にも頭から叱るなんてことをせず、静かに静かに語り諭す。
どんなに不貞腐れた生徒も一時間もすると泣きながら反省するという噂だ。
「おとしよりをかばっての事故だとか。その方から我が校にお礼の電話がありました。ご自宅とは連絡が取れないということでね。今日呼んだのはそれを伝えるためです」
「そうですか」
「ご自分のせいで若いお嬢さんがとんでもないことになったと謝ってらしたわ」
「当たり前のことをしただけです。転んで頭を打ったのは、私の注意が足らなかったから。武芸を学ぶものとして恥ずかしい思いです」
それでも一人の命を救ったのですよ、と校長様は机の引き出しから何かを取り出した。
「ところでこんなものが届いたのですが、何かご存知 ?」
机の上に置かれたそれを手に取る。
私とアルの写真だ。
どうして ?
誰が撮ったの ?
「あら、それは山口君ですね」
「山田先生、ご存知なんですか ?」
担任ですから、と山田先生が答える。
「佐藤の友人で、入院中よくお見舞いに来ていた子です。声をかけ続けると意識を取り戻すかもしれないということで、佐藤に話しかけている様子を私も何度か見ています。実際目を覚ましたのは山口君が話しかけているときだったと聞いています」
「まあ、それでは佐藤さんの命の恩人ということね」
回復魔法をかけてくれてたから、確かに命の恩人なんだけど。
もう一度写真を見る。
この服、この場所。多分、先週の神保町巡りの時だと思う。
狩猟に関する本を一緒に探して、疲れたから近くの喫茶店でお昼休憩してたときだ。
母も祖父も行ったことがある老舗で、私は生いちごジュース、アルは生レモンジュースを頼んで、ミックスサンドとピザトーストをシェアしたんだよね。
でも、あんなに狭いお店でどうやって撮ったんだろう。
全然気がつかなかったよ。
「そう、ネットゲームで知り合いに」
「はい、オフ会というのは大人が企画するので時間が遅くなったり、その後カラオケやお酒の席に行くことも多いので、未成年が安心して参加できる会を開こうとしていたとのことです。その流れで・・・」
山田先生が勝手に説明してくれる。
それにしてもこの写真。私ってこんな顔して笑ってたんだ。
写真が嫌いで、卒業アルバムくらいしか残ってない。
極力映らないようにしていた。
両親がブツクサ言ってたな。
「成長を見られないのは私たちのせいだけど、写真くらい残しておいてくれてもいいんじゃない ? 娘のかわいい姿が見たいのよ」
写真の中の私はとても楽しそうに笑っている。
アルもあちらと同じように穏やかで優しい笑顔だ。
思わず知らず顔がほころんでしまった。
「あの、この写真いただいてもよろしいでしょうか」
居並んだ先生方がえ゛っという顔をした。
「かまいませんが、どうするのですか ?」
「
校長様はフフッと笑って机の上の写真をまとめた。
「そうですね。これをご覧になったら、ご両親はきっとご安心なさるでしょう。でもひとつ教えてください」
「はい ?」
「この写真の時、あなた方は何をお話していましたか」
校長様はニッコリ笑ってこちらを見ている。
何を話してしたっけ。
頑張って思い出す。
そう、あの時は。
「一角ウサギの捕獲方法を話していました」
「一角ウサギ ?」
校長様が変な顔をする。
「角の生えたウサギです。ゲームの中に出てくるんです。集団で襲われると危ないので、どうやって捕獲して毛皮と肉を確保するかと話していました。後、ちょうど狩猟とジビエの本を買ったので、それをゲームにどういかせるかと」
「なるほど。普通に生活していては知ることのできないことについてお話していたのですね」
封筒に入った写真を受け取る。嬉しくてしょうがない。
「よかったですね、よいお友達ができて。ところで今年の学院祭にあなたがお助けしたご婦人を招待しようと思っているのですよ」
「あの方ですか ?」
「会ってお礼がしたいとおっしゃってましたから、元気な姿をみていただきましょう。それと、山口君でしたか、彼もお呼びしましょうね」
? 何故アルを呼ぶことになっているんだろう。
「あなたの命の恩人でしょう。私からもお礼を伝えたいのですよ。後ほど招待状を準備しますから、担任から受け取ってください。忘れず山口君に渡してくださいね」
「はい。校長様、あと写真を撮って下さった方にお礼がしたいのですが」
先生方がまた変な顔をする。
「こんなにきれいに撮っていただいて、ぜひお礼を」
「私から伝えておきましょう。さ、もう帰って結構ですよ。時間を取らせてしまいましたね」
「はい、それでは失礼いたします。先生方もわざわざお集まりいただきありがとうございました」
なんだか変な雰囲気の中、私はまた小さく膝を折ってから校長室を後にした。
◎
「校長様、佐藤の処分はいかがいたしましょうか」
「処分 ? 必要ありません」
「しかし、異性との交際ですよ」
教師たちが顔を見合わせて納得できないと言う。
「禁止されているのは不純異性交遊です。真っ当な交際までは禁止されていませんよ。それにあなた方もみたでしょう」
校長のシスター森本は机に肘をついて顎を組んだ手に乗せる。
「写真を見た時のあの嬉しそうな顔。交際どころかただのお友達ではありませんか。何の問題もありません。これから先お付き合いすることになっても、あの二人なら大丈夫でしょう」
「しかし、写真を提出した生徒に説明しなければなりません。どう言ったら・・・」
生活指導の教師が手をあげて尋ねる。
「そうですね。明日はその生徒を呼ばなければいけませんね」
「何故ですか。彼女は校則違反の証拠を提出してくれたんですよ」
「ですから、校則違反ではないと言っています。問題は悪意をもって盗撮し、学友を貶めようとしたことにあります。もっとも佐藤さんは善意に受け取っていましたが」
ああ、あの天然丸出しの反応、と教師たちはクスリと笑った。
「何にせよ校則は生徒を縛り付けるものではなく、安心して学校生活を送る為にあるのです。この件について変な噂が出ないよう注意してください。そして校則の存在する意味を今一度考えてくださいね。すべては生徒のためですよ」
そう釘をさし、シスター森本は教師たちを解散させた。
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