第6話   依頼書を捨てよ 街へでよう って、捨てちゃだめ!

 私の新しい生活。

 ワクワクしながらさきほどのカウンターへ向かう。


「その様子だと合格ね?」

「そうだよ。チュートリアル用の依頼をお願い」


 受付のビーさんは後ろの棚から小さな包みを取り出した。


「この包みを東の三つ目通りのラスさんに届けて。これが地図」

「これを届ければいいんですか」

「そう。アロイスが付き添ってくれるんでしょうけど、出来るだけ頼らずに自力でやってね」

「はい!」

「いいお返事。じゃあチュートリアル開始ね。がんばって!」

「はい、行ってきます!」



 この街の名前はヒルデブランド。

 最初に入植したお貴族様の息子さんの名前だ。

 その一族は大出世して中央に進出。今は信用出来る代官が治めている。

 街は大きな楕円形で、中央よりやや南よりの広場を中心に大きな十字路がある。これがメインの通りだ。

 通り沿いに教会、各ギルド、商店などが並び、内側に工房や住居がある。

 通りの東の端は墓場。

 北のドンツキに領主館がある。

 北に行けば行くほど裕福な家庭ということだ。

 西側は主に農業を営んでいる家になる。

 城壁の外側は農業地帯となり、それをさらに大きな城壁が囲んでいる。

 そしてその外側には広めの川が流れている。

 ヒルデブランドは二重の城壁と人工の川に守られた要塞都市のようだった。


「真ん中が南北に走る『一直線通り』。東西をつなぐ『大手をふるって大通り』の西側が『小麦への道』で、東側が『つきあたりの末路』だよ」

「だから、なんなのそのネーミングは。まともなのは街の名前だけじゃない」

「命名が当時8歳の領主様の息子さんらしい。詳しいことは知らないけど、ものすごく公平な決め方だったってさ」


 で、これから行く『東の三つ目通り』はそのものズバリ。東から数えて三つ目の通りだという。

 同様に『北の五つ目通り』とか『南の二つ目通り』とかいうそうで、一番目の通りだけは『西の最初』とシンプルになっている。


「最初からそういう分かりやすい名前にしておけばいいのに」

「まあまあ、覚えなくちゃいけない通りの名前は4っつだけ。後は慣れかな。ほら、ここが東の三つ目通りだ。ラスさんの家を探して」


 東の三つ目通りは結構長い。

 これ一件ずつ見ていかなくちゃいけないんだろうか。

 もう一度依頼書をみてると、


「住所が・・・」


 宛先が『駄菓子のラス氏。東の三つ目通り。南の四』になっている。

 これって、東の三つ目通りと南の四つ目通りのぶつかったところ?


「はーい、きがついたね。そう、大当たり! チュートリアルその1,依頼書は良く読みましょう、だよ」

「引っかけ問題かいっ!」


 アロイスがパチパチと手をたたく。


「怒らないでよ。かく言う僕も引っかかった口だもん。東の三つ目通りを探してずいぶんウロウロしたんだよ。半日たっても見つからなくて、涙目で依頼書を読み返して気がついたってこと。あれはきつかったぁ」

「なんでわざわざこんなことするのよ」


 ちゃんと依頼書を読まないで出かけて、場所や種類、個数なんかを間違えてくる若い子が昔はけっこうな数いたらしい。それでまずは基礎の基礎をたたき込もうと始まったチュートリアル・モードなんだそうだ。


「つまり、これは失敗を前提とした依頼ということね? だとすると、答えは全てこの依頼書にある。ラスさんちはここよ!」


 私はピシッとある一軒の家を指さした。

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