第11話 地下2階 7部屋(その2)

 回収したリュジュを交えて全員が立会いの下、マスター・ルームに《スケルトン》を召喚することになった。

 全員にいてもらうのは、万が一《スケルトン》が暴れ出したら怖いからに決まっている。


「――いえ、《スケルトン》程度でしたら、ステータス差からいってもアカシャ様が圧倒できると思いますが?」

「世の中何があるかわからんかな~。獅子は兎を狩るにも全力を出すというし……」

「いえ、それは俗説です。獅子が全力で兎を狩った場合、消費するカロリーに比べて得られるカロリーがマイナスになるので、獅子は兎を狩りません」


 そんなやり取りをヤミと行った後、マスターの椅子に座って、ヤミが掌の上に開いて見せる魔物のリストを確認する俺。


「アーチャーとかポーンとか、《スケルトン》にも結構な種類があるんだな……」

 おまけに名前のところにそういった表示が付いたものは、通常の《スケルトン》のレアリティが☆2なのに対して、一つ上がって☆3になっているし。

「アンデッド系は生前の能力や特性に依存するところがありますから、大抵その手の特殊個体は戦闘職や狩人などの玄人ですよ」

「ふーん。通常種は素人ってわけか。じゃあレアリティ☆3の方を呼び出した方がお得ってことか」

「そうですね。ただ――」

 少しだけ懸念を表明するヤミ。

「レアリティ☆3クラスの《スケルトン》になると、ある程度自意識を持っている個体もいますので、条件面の折り合いがつかなかった場合には、契約を拒否される恐れもありますので、その場合は消費したポイントをドブに捨てたも同然になります」

「条件? 例えば?」

「そうですね……一般的な魔物であれば、毎日新鮮な肉を食わせろとかですが、レアリティの高い高等な魔物になれば、自分専用の神殿を造ってお供え物を寄こせとか、月に一度処女の生贄を捧げろとか、決まった金額の金銀財宝を寄こせ……とか、様々ですね。ですから、レアリティの高い魔物と契約することは、それ相応の財力がなければ普通は手痛いしっぺ返しを食らうのが常です」

「えっ、そうなの……!?」


 思わずこちらの様子を傍観しながら、三時のお茶とばかり自由ヶ丘のモンブランを食べているフィーナとリュジュとを見た。


「……あのふたりは別です。細かい契約を決める前に、自分から自爆してほとんど無条件で契約を交わしたわけですから」

 そのふたりに聞こえないように、耳元でささやくヤミ。

「本来であればフィーナさんには神殿の一つや二つ。あと、リュジュさんには毎日宝石を贈らないと、普通なら契約面で折り合うわけがないところです。――ですが、逆に言えばこちらが強制する規定もないので、気が変わればいつでもダンジョンを出ていきますし、アカシャ様に牙を剥くことも厭わないということを覚えていてください」


 わーーー、なんか俺の立場って砂上の楼閣もいいところだったんだなー……。

 と、まったりとモンブランを食べながら、

「パリの〝アンジェリーナ”のモンブランこそ本家ですけど、これはこれで美味しいですね~」

「うむ、美味であるな。だが、本家といえばルテティア(※現パリ)ではなく、ローマ帝国時代から続く、セグシウム(※現イタリア北部)の栗を使ったモンテ・ビアンコであろう」

 どこにでもあるような女子トークをしている《ヴイーヴル》と《水の神霊ナ―イアス》を眺めながら、ヤミの警告を存分に噛み締めるのだった。


「それと、言い忘れていましたが、ダンジョンと契約できる魔物はダンジョン・マスターのLvに応じて、一体ずつ増える仕様となっています。Lv10なら10体ですね」


 そう言われて念のために自分のステータスを確認してみた。


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Name:虚空(通称:アカシャ)

Rank::Dungeon Master

Class:Der Erlkönig

Level:27

HP:5110/5110

MP:4630/4630

Status:

・STR 256

・VIT 190

・DEX 288

・AGI 169

・INT 227

・LUK  22

Point:7553139/26688500

Skill:『迷宮創作(Lv2)』『召喚魔法(Lv1)』『土魔法・ピット』『ダウジング(Lv3)』『鑑定(Lv2)』

Authority:『真眼:君子危うきに近寄らず』

Title:『異界の魔人』『罠師の魔王トラッパーズ・デビル

Privilege:レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[Lv10↑記念]

     レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[Lv20↑記念]

Familia:《水の神霊ナ―イアス》、《ヴイーヴル》、《水の小精霊ウンディーネ》×5、《風の小精霊シルフィード》×10(17/25)

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「Lv25ってことは、いまいるフィーナとリュジュたちを別にして10体まで所属させることが可能ってことか。スキルも使っているのはそれなりに上がっているな。……つーか、なんだこのAuthority:『真眼:君子危うきに近寄らず』ってのは?」

「Authorityというのは権能ですね。スキルとは別にその個人の資質やバックボーンに応じて、開花するその個人のみのスペシャルスキルのようなものです」


 これは凄いものですよ。いくらポイントを出しても取得することができないものですから! と、弾む声でヤミが興奮して捲し立てているけれど、それにしちゃもうちょっとカッコイイ名称の必殺技みたいなのが来なかったもんかね。

 そう思いながら、『Authority』の詳細を確認しようと意識を凝らす。


【真眼:君子危うきに近寄らず】=あらゆるものの強弱を本能的に把握し、常に自らの生存を優先させ、弱い部分を真っ先に認識できる。


「…………」

 つまり敵わない相手と対峙した場合、即座に逃げ道を察して逃げ出せるってことか。

 使えるんだか使えないんだか微妙な権能だな、をい。

 つーか、これが俺の特性だっていうなら、どれだけチキンなんだ俺は?


「はあ~~……まあいい。とりあえず☆3クラスの《スケルトン》を召喚してみることにする。できれば、いろいろと種類を取り揃えてみたいけど」

 とりあえずテストケースなので、いくつものバリュエーションを取り入れた方がいいだろう。


「それならば、10体セットで本来40Pのところ30Pで召喚可能な、《スケルトン・ユニット》がお得ですが?」

「なんだそのファーストフードのセットか、同じようなTシャツのまとめ買い用通販みたいなのは!?」

「さあ? なぜか格安になっているのですよね」

「絶対に訳あり商品だろう! それに10体まとめて召喚したら、いまのところ枠がいっぱいで《スライム》とか召喚できないじゃないか」

「そうですが、正直申し上げてスライム1体でダンジョンの所属枠を塞ぐのは、現時点ではあまり賢明ではないと愚考するのですが……」


 むぅ、確かに。魔物1体で所属枠を1つつぶすのだったら、レアリティ☆の《スライム》よりも、いま呼び出せる最高戦力である☆☆☆の魔物で固めた方が効率的だな。


「つーか、スライムって勝手に増えるイメージがあったんだけど、一体だけ召喚して勝手に細胞分裂とかしないものなの?」

「しません。生態系の保護のためにレアリティ☆4以下の知性のない魔物の生殖活動は抑制されています。なんでも初期の段階で見積もりを甘く見たため、失敗した事例があったための制限だそうです」

「勝手に増えるイメージのある《ゴブリン》や《オーク》は?」

「当然、事前に去勢しとっています」

「わー……おぅ」

 にべもなく言い切るヤミの非情な宣言に、思わず股間がキュンとなった。


 ともかく、無制限に《スライム》や《ゴブリン》を増やして戦力を増強する……という濡れ手で粟のやり方はできないらしい。


「となると今の段階では少数精鋭で行くしかないか。――よし決めた。そのお買い得の《スケルトン・ユニット》で試してみることにする!」


 そうと決断をして、ヤミに所定のページを開いて詳細を見せてもらう。


《スケルトン・ユニット》=《スケルトン・リーダー》×1、《スケルトン・ウォーリア》×3、《スケルトン・アーチャー》×3、《スケルトン・ライダー》×2、《スケルトン・メイジ》×1[雇用条件:バラ売り不可。召喚後要相談]


「バランスはそこそこいいんだけど、なんでこれで特価大安売りになってるんだ?」

「雇用面で折り合いがつかなかったのではないでしょうか? 他の者はともかく《スケルトン・メイジ》であれば単体でも☆4になっていても不思議ではない逸材ですし」

「ふむ? まあ召喚してみないことには話にならないか」


 そんな俺たちのやり取りを眺めながら、フィーナが聞こえよがしに、

「安物買いの銭失いにならねばよいのだがのぉ……」

 そう当てこすった。


 やかましい! と思いながら俺はヤミの差し出すページに手をやって『召喚魔法(Lv1)』を発動させる。

 途端、安物の絨毯を敷いたマスター・ルームの床に10個の魔法陣が出現して、そこから虹色の影が立ち上って、速やかに実体化を済ませるのだった。


「――ん?」


 だが、その途端、我知らず俺の口から怪訝な声が漏れていた。

 現れたのは確かに剣や弓や槍を持った白骨――ボロの革鎧を着た《スケルトン》たちだったが、全員が全員、平均身長をちょっと超える程度の俺よりも小柄で、見るからに骨格が華奢なのだ。

 これどう考えても、生前鍛え上げられた屈強なムキムキマッチョだったという風情ではない。


 思わず小首を傾げる俺に向かって、「――おい」とフィーナが微妙に冷めた目つきと声をかけてきた。

「どうかしたか?」

「おぬし……わざわざコレを選んで指名したのかや?」

「??? どういう意味だ?」


 困惑しまくる俺の表情から何を感じ取ったものか、フィーナは深々と嘆息して一言、

「こいつら全員、女……それもうら若い娘っ子ばかりじゃぞ。おぬし、女なら骨でもいいのか? どれほど好き者なのじゃ。ゼウスも驚きじゃのォ」

 呆れ果てた面持ちでそう言い放った。


「はああああああああああああっ!? 女?! ど、どこが?」


 思いがけない言いがかりに思わず素っ頓狂な声を張り上げる俺。

 フィーナは面白くもなさそうな顔で、当然という口調で断言する。


「見てわからんのか? 骨盤が明らかに女のものじゃ。あと頭蓋骨の形と大きさからいっても、いずれも十代の娘ばかり。おそらくは女蛮族アマゾネスの一団じゃろう」


 その言葉に、《スケルトン》たちが一斉に頷いて肯定を示すのだった。


アマゾーンAmazon】[複数形:アマゾネス]

 かつてアマゾン海(黒海)沿岸に暮らしていた母系狩猟民族。

 神話によれば、ヘラクレスとテーセウスがアマゾネスの国に攻め込んだ。後にテーセウスが治めるアテーナイ国へアマゾネスが総力戦を挑み、これに敗れて滅亡したと伝えられている。

 ちなみにテーセウスの妻の一人は、フィーナの実姉である《水の神霊ナ―イアス》アイグレーである。


 以上、懇切丁寧に自分がアイグレーの妹の《水の神霊ナ―イアス》であることも含めて、アマゾネス(の骨)の前で滔々と語ったフィーナ。

 当事者であるアマゾネスの成れの果てである《スケルトン》たちは、特に反応することなく虚ろな眼窩で、ボーっと因縁の相手であるフィーナを眺めているが、なにしろ白骨なので表情がわからないから、単に傾聴しているだけか、内心の怒りを押し隠して睨みつけているだけか区別がつかない。


 とはいえどう考えても友好的な間柄とは言い難い両者――ましてほぼ当事者同士――を間に挟んで、俺とリュジュは二人揃って、

「「オワタ\(^o^)/」」

 と、事態の深刻さに揃って乾いた笑いを放つしかなかった。


 とは言えいつまでも現実逃避していても仕方がないので、可能な限り愛想良く突っ立ってる《スケルトン》たちへ、契約について……なるべく穏便にお引き取り願うために話しかけた。


「えーと、俺が君たちを召喚したこのダンジョンのマスターであるアカシャだ。それで、だ。条件面での折り合いについてだけれど、まあ君らも人間関係が殺伐とした場所で働きたくはないだろうから、今回は縁がなかったということで――」


 そう言いかけたところで、鑑定で《スケルトン・リーダー》と表示された、剣と円形盾を持った《スケルトン》のひとりが手を挙げた。


「はい、どうぞ」

 慣れた感じでヤミが挙手した《スケルトン・リーダー》に発言を促す。

「…………」

 いや、何を言っているのかわからんって。

「〝契約をしないということだが、それは我らが契約するに足りないと判断してのことか?”と言っています」

 カタカタとカスタネットのように顎を上下に動かして捲し立てていた《スケルトン・チーフ》の言葉を、ヤミがその場で同時通訳してくれた。

「戦力がどうこうじゃなくて、相互連携の問題だな。敵国の総大将と親戚関係にある《水の神霊ナ―イアス》がいては、わだかまりや禍根があるだろう? 職場の人間関係がギクシャクしては、ダンジョン全体が有機的かつ柔軟に動けない可能性がたかいから、そのリスクを減らしたくてそう言ったんだけど?」


「うわ~……はっきり言いますねぇ……」

 私にはできないなー、とボヤくリュジュだが、問題がある場合には下手に曖昧にしないで、キッチリ要点を言っておかないと、余計にややこしくなるものだろう。


「妾は別に気にしておらんぞ。未開の部族の雑兵如き……それにテーセウスも大した男ではなかったゆえ、姉上もさっさと別れたしのぉ」

 鷹揚といえば鷹揚なのだが、相手に対する気遣いゼロで、とことん喧嘩を売っているようにしか思えないフィーナの発言に、一触即発の事態を想定してリュジュが頭を抱えた。


 とりあえず《スケルトン》たちが暴れ出したら、床に穴を開けて隔離しよう。そういつでも操作できるように準備しながら、《スケルトン・リーダー》のカタカタという返事をヤミに通訳してもらう。


「〝勝敗は世の常。我らは同族同士でも互いの名誉と誇りを賭けて戦いを繰り広げていた。負けた者は弱かったに過ぎぬ。自身の力不足を悔やむことはあっても、勝者の栄誉を穢し嫉むことはない。”と言っています」

「ほーっ、戦士らしく潔いねー」

 と、口では賛嘆の言葉を発しながら、内心では『胡散くさっ。綺麗ごとばかりで信用できない。人間ドロドロした感情もあってそれを理性で折り合いをつけるもんだろう? こういう社会・情操教育で感情に蓋をされた連中って。ぜってー後から問題を起こす典型だな』と、本音を見せない《スケルトン・リーダー》の態度に、はっきりとした不信感を覚えた。


「それと〝我々がいままで契約を完了できなかったのは、我らを呼び出した召喚者が、我らの体躯や女蛮族アマゾネスという由来を軽視したが故である。確かに我らは屈強な男に比べて膂力こそ劣るものの、その力量は決して男たちに劣るものではない。”とのことです」

「うん、なるほど。わかった」

 まあ普通に考えれば《スケルトン》という種族で華奢な骨はいらないわな。

 納得した俺は《スケルトン・リーダー》に向かって、にこやかに結論を伝える。

「やっぱいらないわ。今回の召喚はなしということで――」

「〝な、なぜだ!? あなたも我らを女とみて軽んじているのか?! だが、あなたの周囲にいるのは女性ばかりではないか!”とのことです」

 必死に食い下がる《スケルトン・リーダー》(の言葉を通訳するヤミ)。


「いや、女だからとか、女蛮族アマゾネスだからとかではなく、あんたら本音で喋ってないだろう? おためごかしじゃなくて、こーいう理由だから協力するとか、そういう部分が見えない以上、メリットよりもデメリットの方が大きいと判断したんだ」

「〝我らは戦士として戦いの場に臨む覚悟で――”」

「単なる戦闘狂? だったらグループに拘らなくて、ソロで契約すりゃいいじゃん。グループで雇われたい理由があるんじゃないのか? そこら辺を最初に話してもらえれば、俺としてももうちょっと柔軟な態度が取れたんだけどな。そちらが信用していない以上、俺も譲歩できない。以上だ」


 そう言い放つと、《スケルトン・リーダー》は目に見えて気落ちして、がっくりと項垂うなだれた。

「…………」


「――で、召喚解除ってどうするんだ?」

「わたくしのページの《スケルトン・ユニット》の項目にタッチして、〈解除アペリエンス〉と唱えれば破棄されます」


 返す言葉を失った《スケルトン・リーダー》を尻目に、《スケルトン》たちの召喚を破棄しようと、マニュアルヤミと相談していた俺。

 そんな俺に向かって、とりわけ小柄な《スケルトン・メイジ》が一歩前に進み出てきて、何やら必死に訴えかけてきたのだった。


「――ん?」

「〝待ってください。リーダーは元はといえば、あたしたちのために肉体を取り戻そうと、そのためだけに頑張ってくれたんです”と言っています」

「肉体? 何それ?」

「〝あたしたちのような低位のアンデッドは、大量の経験値とポイントさえあれば、肉体を持ったアンデッドになれると聞いています”――ああ、『存在進化』ですね」


 そう言ってヤミが付け加えた解説によれば、

「レアリティの低い魔物がLv99になった場合、必要なポイントをマスターが負担することで、魔物をよりレアリティの高い存在へバージョンアップすることが可能です。例えば☆1の魔物であれば1万ポイントで☆2へ、☆2なら10万ポイントで☆3へ、☆3なら100万ポイントで☆4へ、☆4から1000万ポイントで☆5までですね。☆5が『存在進化』の上限となります。とはいえ、どう進化するのかはランダムの要素が強いですし、それなら適性ポイントを払って最初からレアリティの高い魔物を召喚した方がコストもかからないので、あまり実行するマスターはいませんね」

 とのことである。


「ふーん、つまり[雇用条件:バラ売り不可。召喚後要相談]ってことは、そのあたりの折衝がいままで上手くいっていなかったってことか」

「まあ当然でしょう。それに『存在進化』が目的となれば、おそらくは経験値の分配にも口出ししてきたでしょうし」


 ヤミの指摘が図星だったのか、《スケルトン》たちはきまり悪げに、頭蓋骨を見合わせてその場でもじもじし始めた。

 ……これ肉と皮が付いていたら乙女が恥じらう姿で可愛いのかも知れないけれど、現在の白骨集団がカラコロと音を立てて蠢いている姿は、単なる死霊の踊りにしか見えない。見ていると呪われそうだ。


「経験値の分配?」

 とりあえずヤミの方を向いて話を戻す。

「はい、ダンジョン内で味方に所属する魔物が敵を斃した場合、デフォルトの設定ですとマスターと斃した魔物とで、5:5の均等に経験値が分配されますが、マスターの操作で7:3や甚だしい場合は10:0にすることも可能です。ですが、彼女たちの場合は少しでも経験値を多く分配してもらえるよう交渉したのではないでしょうか?」

 その言葉におずおずと頷く《スケルトン》たち。

「ははぁ……そりゃ、どことも契約できないわけだわ」

《スケルトン》って基本的に使い捨ての雑魚というのがダンジョン・マスターの認識らしいし、俺だってそう思っていたのだ。そんな面倒な条件を出されたら、誰だって『(゜⊿゜)イラネ』となるだろう。

「つーか、なんでそんなに肉体に拘るわけ?」

「〝それは――”」と、一瞬言い淀んだ《スケルトン・メイジ》だが、気を決して言い放った。

「〝甘いものをお腹いっぱい食べたいからです!”」

「〝鎧ばかりではなく、今風のお洒落がしたいんです!”」

「〝酒よ! 今の世の中の美味しいお酒を浴びるほど飲むぞ!”」

「〝次こそは筋肉質な腕ではなくて、細くてすらりと日焼けしていない腕に!”」

 と《スケルトン・ウォーリア》たち。

「〝男欲しい、男! 彼氏が欲しい~っ!”」

「〝そうそう。女と生まれたからには、男と付き合いたい”」

「〝できれば最後の一線まで……ぐへへへへっ”」

 必死にアピールする《スケルトン・アーチャー》たち。

「〝フワフワモコモコした動物を愛でるにゃー!”」

「〝遊びた~い。全然遊ばないで終わったもん”」

 そう言う《スケルトン・ライダー》たち。

 そうして《スケルトン・リーダー》はと言えば、

「〝くっ、私だってそろそろ結婚して、子供のひとりふたり授かっていたかも知れないのに……”」

 慙愧の念に震えていた。


 つーか、さっきまでの重厚さや悲壮感はどこに行った!? まるで女子校の教室じゃないか。シリアス仕事しろ! と、思わず椅子に座ったまま頭を抱える俺。


「面白い連中じゃのー。滅びたのが惜しいわ」

 そんな彼女たちの主張を前に、フィーナがカラカラと笑い、

「なんか気が合いそうですね~……」

 リュジュも楽しげである。


「どうしますアカシャ様。〈解除アペリエンス〉しますか?」

 そうヤミに確認され、これで無碍にしたら俺ただの嫌な奴じゃないか……とため息をついて、

「……条件は侵入者の抹殺と周辺の警備。見返りとしてLv99になったら『存在進化』を行う。経験値分配比率は、俺3で各自7でどうだ?」

 そう契約を持ち掛けた。


 一瞬、呆けた様子で棒立ちした《スケルトン》たちだったが、すぐに沸き立って歓喜の踊りを踊り始める。いや、怖いって。


 辟易しながら踊りを辞めさせ、速やかに契約を済ませたところで、《スケルトン・リーダー》が片膝を突いて、俺に向かって恭しく頭を下げた。

 背後に部下の《スケルトン》たちが付き従う。


「〝感謝いたします。この身が粉々に砕けようとも御屋形様にこの剣を捧げます”とのことです」

「ああ、頼むよ」

 そんな俺たちのやり取りを横目に、出しっ放しの《ダンジョン投影》の画面を食い入るように見つめていたヤミが、

「――どうやら、早速その実力を見せてもらう機会が来たようですね」

 そう言って画面の一つを指さす。


 言われて見た先では、泉もなくなり誰もいなくなったダンジョンの入り口を覗き込む、醜悪な顔立ちをした紫色の肌をした矮人の姿があった。


「「なんだ(じゃ)あれは……?」」

「きもーい……化け物だわ」

 俺とフィーナが声を揃え、リュジュがおぞ気を振るって嫌悪感を露わにした。


「《スードウ疑似・ゴブリン》。かつて他のダンジョンから逃げ出したゴブリンが、短いサイクルで共食いをして世代交代を繰り返した挙句、突然変異的にこの世界に順応した種です。この世界の住人の《魔臓》やモンスターの《核》を食べることで代謝に当てることができる他、ダンジョンの魔素――特に『Soul Crystal』を好物にしていますので、ダンジョンにとってはシロアリも同然です。似たような《スードウ疑似・スライム》ともども優先駆除対象ですので、駆除するとポイントも高いですので、殲滅することを推奨いたします」

 ヤミも珍しく不快感も露わに吐き捨てた。

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