物語りの結末は冒頭で示されているので、ストーリーの内容は想像が付きそうなものだが、これがどうして、中々に読ませてくれる。文章の地力は確かなものがあり、陰鬱な雰囲気ながら湿っぽくならず、主人公の乾いた語り口が読後感を悪くないものにしている。父親が言う「不幸な彼女に対する唯一の幸せ」という台詞が後に起こる不幸に対するアンチテーゼとなっているのも上手い。それぞれの話の結び方も秀逸。文章構成も物語の組み立て方も共に練られているように感じる。今後の展開が気になる一作。