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「実は」

 ペースの遅い二杯目のオーダーを受けた時アコさんがおずおずと言った。

「妹が」

「妹さんが?」

 そう言ったかと思うとアコさんはもう一度ため息を吐いた。

 妹さん・・・? 歳の離れたちょっと生意気な、あの子? 話でしか聞いたことないけど。

「はぁ」

 続きを促したのに返って来たのはまた深い息だ。何か深刻な事でも起こったのか? 彼氏を寝取られたとか・・・ドラマの観すぎか。

「実は」

「・・・実は?」

「することになって」

 することになって? 何を?

「結婚」

「結婚」

 寝取った彼と? なんて不謹慎な言葉が浮かぶ。いやまだ寝取ったとか寝取られたとか決まってないし。いや、でもこんな深刻そうなアコさんの顔を見ると・・・「良かったなぁって」

「え?」

「いや、結婚出来て良かったなぁって」

 顔を上げたアコさんは困ったような、それでいて安心したような表情だった。

「あの子に結婚が出来るかどうか、本当に心配だったから、って自分の心配をしろってね」

 今度はそう言って自虐的に笑う。でもその顔はやっぱり優しい顔つきで。

「でも本当に安心しました。なんだか肩の荷が下りたって感じで」

「そうでしたか」

「だから今度の休みの間に顔合わせをすることになっていて。お盆の時期だからちょっとどうかなって思ったんですけど、最近はあまりそういうの気にしないみたいで。仕事の関係もあるし。正直休んだ次の日のことを考えると辛いけど、本当に嬉しいです」

「おめでとうございます」

「えへへ、ありがとうございます」

 アコさんはさっきまでの疲れた顔なんてすっかり消えてしまったようで、微笑んだ顔はまるで優しげな花のようだった。

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