アネ
カゲトモ
1ページ
「ふぅ」
ため息なのか、ただ吐いた息が大きく聞こえただけなのかどっちなのかは俺には良く分からないけれど、今日もアコさんはお疲れモードだ。
今日が月曜日だから? もちろんそれもあるかもしれない。彼女の働いているレストランの定休日は明日の火曜日だから。
「お疲れ様です」
クラッシュドアイスで満たされたグラスを彼女にサーブしながら声を掛けた。アイスの隙間を埋めるのは白いココナッツミルク。縁を彩るのはカットされたパイナップルにチェリー、それから砂糖で作られた紫の花の菓子。
本当は生花を挿したりするんだけど、やっぱり食べられる甘い砂糖菓子が付いていた方が女性受けがいいみたいで。もともとトロピカルカクテルのチチは女性好みのものだし、アコさんも良く頼んでくれる。一番に砂糖菓子を口に入れるのが彼女の飲み方だ。
「美味しい」
「ありがとうございます」
砂糖で出来た花を味わってからグラスに挿したストローを咥える。二本挿してあるストローのうち一本は、吸っている途中で詰まってしまった時用の予備だ。意外とそれを知らない人は多い。
「今週はお仕事大変だったんですか?」
訊ねると彼女はグッと眉根を寄せて口をへの字に曲げた。その顔を見れば分かる、大変だったのだな。
「でも正直来週の方が怖いですよ」
「来週ですか?」
「だって一般の人は夏季休暇でしょう?」
「あぁなるほど」
来週からは世間一般的に言う“お盆休み”に突入する。俺んとこみたいなバーは客足が遠のくけれど、アコさんとこのレストランはその逆だからな。ファミリーでも食事のしやすいイタリアンだし。
「マスターはお盆休み取られるんですよね?」
「はい、今年は三日間の予定です」
大型連休は客足が遠のくのもあって数日休みをもらうことにしている。それでも年に二回しか親の顔を見ないんだから親不孝と周りに言われても仕方ないさ。
「実は私も今年は休みをもらうことになっていて」
いつもならもう二杯目に行っていてもおかしくない時間なのに、アコさんのチチは減りが遅い。どこか上の空だ。
どうしてチーフとして働くアコさんが激務の盆休みに休みを取るのか、他のお客様の接客が入ってしまって聞きそびれてしまったけど、きっと何か深刻な事があるに違いない。何かは分からないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます