星の無い夜

リーマン一号

星の無い夜

空に広がる満天の星空は、時として時間すら超越するらしい・・・


かつて、この地を訪れた旅人はこの空をそう表現した。


小高い丘に囲まれたドーナツ状のくぼみにある小さな村。星見里。外部から吹き寄せる風は山の頂によって遮られ、一年中雲すらかから無い町と称され、都心の喧騒に疲れた多くの観光客が毎年訪れる観光地でもある。


唯一のトンネル道を除けば外界から完全に遮断された田舎町。


田んぼと畑しかないような土地。それはもう絶景で、この村では「空を見ていたら勝手に夜が明けていた」なんて冗談があいさつ代わりになるほど。



辺りが寝静まった夜の内。


俺は家を抜け出すと、近くの展望台へと望遠鏡を担ぎ込んだ。


注意深く付近に誰もいないこと確認し、三脚を組み立て夜空に向けてレンズを突きつける。


だが、そこからの景色は消して美しいと言えるものではない。


空に広がるのは満天の漆黒。


星も月もまるでどこかへ行ってしまったように地上から姿を消している。


「今日もダメか・・・」


俺は落胆して肩を落とした。


もちろん昔はこうではなかった。


田んぼと牧場しかないような片田舎でも、雲一つない空に浮かび上がる無数の星がこの展望台に降り注ぎ、常に観光客でいっぱいだった。


しかも、この時期であれば星々は右へ左へと流れる流れ星ともなれば、それはもう絶景で、この村では「空を見ていたら勝手に夜が明けていた」なんて冗談があいさつ代わりになるほど。


しかし、今となっては昔の話だ。


まばゆいばかりの星の光は黒い遮蔽物に遮られ、その代わりといった具合に村には昼夜を問わず光が灯り、大人達は朝から晩までそこで作業を強いられる。


今より10年前、大きな本当に大きな宇宙船が現れた。


あまりの出来事に唖然とする我々に対して、彼らは一方的にあるものを要求してきた。


それはこの星の資源でも食糧でもなく、労働力だった。


身の回りの世話から、衣食住にかかわるすべてを自分たちではなく我々にやらせようというのだ。


そこから我々にとっての地獄が始まった。


宇宙船に強制的に収容されるものや、星にとどまり彼らの仕事を従事させられるものなど様々だが、総じて異常なまでの労働を強いられた。


中には抵抗を示すものもいたが、星一つ覆うほどの宇宙船を作り上げる存在にかなうはずもない。


或る者は殺され、またある者は拷問に処された。


奴隷には自由も慈悲も無いのだ。


以来、空には常に巨大な宇宙船が停滞し、月はおろか太陽すら数えるほどしか拝むことが許されていない。


それでも、俺はまだ諦めていない。


いつか必ず、再びこの空に月を星を取り戻して見せる。


俺は黒い空を睨みつけた。




「人類!お前らの好きにはさせねぇぞ!」



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