ニ魂一体

なわ

Episode.1 崩れる落ちる平凡

五月の中旬。空の教室に一人。横から差し込む夕日がまっすぐ窓を通り私のほほを赤く染めた。眩しい。赤の日差しは昼の日差しほどうっとうしくはないけれど、昼の日差しより視界が悪くなる。もう、きっとほとんどの生徒は下校してしまっただろう、私だって帰りたい。でも、私を呼び出した人がまだ来ないから帰るに帰れない状態なのだ。呼びだしは手紙によるもので誰に呼び出されたのかわからない。いわゆる、差出不明だ。ただ一言「話したいことがあるので人のいない時間に教室で待っていてください」。手書きだったが、とても丁寧な字だったので男子の字か女子の字かも微妙なところであった。まぁ、でもきっと男子だろう。なんてったって下駄箱に入ってたんだし。もう、私も高2だ。そろそろ、青い春が来てもおかしくない頃だろう。ただ、一女子としてアドバイスをするのであれば少し乙女な気がするよ、このシチュエーション。いやいや、でも、だからと言ってはい、減点何てするつもりはないよ?勇気を振り絞ってくれたんだもん、何もしてない私よりずっとえらい。それに、その、わ、私のことをす、好きになってくれたんだから、そんな偉そうなこと…。そんな風に、私が一人で勝手な妄想を膨らましていると、大きな音を立てて教室の建付けの悪い扉が開いた。

「ミコトさん、よかった、待っていてくれたんだ。」

男子の声。ここからじゃ夕日のせいでうまく顔が見えない。えぇ、待ちましたよ、部活なんて入ってないから図書室でひたすら時間つぶして。

「待たせてごめんね。でも、大切な話があるんだ。」

優しい話し方。彼が私に近づいて初めて顔が見れた。同じクラスのサカドウ君。嘘、今まで全然意識したことなかった。だって、クラスでもおとなしい方だし、席も遠かったし。でも、割と女子の間では整った顔立ちや物腰の柔らかい話し方で人気だったから話は聞いたことあった。冷静を装おう。

「どうしたの?呼び出して。話って?」

よし、完璧。声も裏返らなかったし、なんかできる女っぽい。私の返答にサカドウ君は恥ずかしげに目線を外した。

「うん、それなんだけどね…。」

サカドウ君が口をつぐむ。とても言いづらそうだ。なんだか見ているこっちまで恥ずかしくなってくる。サカドウ君は一つ大きく息を吸って、吐いて。そして。

「非常に残念だよ。」

え?氷のように冷たい声。そして、サカドウ君はおもむろに右腕を引いて、ナイフを持ったその手で私の顔めがけて横に振ってきた。

「きゃっ!」

間一髪で後ろに避ける。危なかった。今のを避けられていなかったらきっと怪我どころでは済まないだろう。どうしてこうなったの?私が何かした?残念って?どこからナイフが出てきたの?疑問がやまない。でも、とりあえず、サカドウ君から離れないと。私が慌ててサカドウ君から机二個ほど離れると、何が面白かったのか、サカドウ君はこらえきれないという風に笑い出した。

「さすがだよ、ミコトさん。今のを避けるなんて。」

「やめてよサカドウ君!どうしてこんなことするの?」

私の知っているサカドウ君はこんなことするような人じゃない。まったく何が起こっているのだか。とりあえず、今は時間を稼ごう。サカドウ君は私の言葉を聞くと急に笑うのをやめた。

「どうして?君がいけないんだよ、ミコトさん。君に素質があるから。…僕は悲しいよ。」

怖い。サカドウ君が何を言っているのかわからない。素質ってなんの?サイコパスってきっとこういう人のことを言うんだと思う。本当にもう、どうしたらいいんだろう。

「僕たち何もなければ、きっといい友達になれたよ。もしかしたら、それ以上にね。なのに、今は君を敵として排除しないといけない。こんなに悲しいことがあるだろうか。嘆いても嘆ききれないよ。」

サカドウ君がそう言い終わると無数の刃物が私にめがけて飛んできた。あぁ、もう、どこから出現しているんだその刃物は。慌ててしゃがみ、そのままさらにサカドウ君との距離をとる。よく見ると、飛んできている刃物はすべてジャグリング用の装飾されたナイフだった。だからと言って、刃物は刃物。当たったらひとたまりもない。しばらくしゃがんでおとなしくしていると刃物の嵐がやんだ。まったく、学校でこんなことが起こってもよいものだろうか、何が起こっているのかさっぱり理解できない。でも、だからと言ってここで無様に死ぬことはさらさらできなかった。私は刃物の嵐がやむと同時に立ち上がると、一番近くにあった椅子を思いきりサカドウ君に投げつけた。もちろんそんな運動音痴じゃないから見事サカドウ君に当たる。サカドウ君は腕で払うも、さすがにあんな固いもの、普通に当たっていなくとも、腕にはダメージがいったようだ。そのままこちらを忌々しそうに睨み腕を抑える。ごめんねサカドウ君。でも、これは君から始めたこと、いわば正当防衛なんだよ。それにしても、学校に不審者が入ってきたとき用に考えていた護身法をまさかクラスメイトに使うことになるなんて。ええい、そんなこと気にしてられるか。私はあともう二、三脚見境なくサカドウ君付近に投げつけた。そのうちの一脚が先ほどナイフの飛んできた場所で不自然にぶつかり落っこちた。当たった場所からだんだんと壁の色が変わる。いや、壁との間に突然人が現れたのだ。本当に何でもありだ。今日一日で私の中の常識がひっくり返ってしまった。現れた人はまた何とも不思議な人で、柄物のジャケットにまた別の柄のズボン。頭には何とも形容しがたい帽子をかぶっていて、それがうつむいているせいか顔を隠してしまって、顔はよく見えない。なんだかピエロみたいな格好だ。登場の仕方といい、とても常識人には見えない。

「ナオト、大丈夫デスか?」

「あぁ。」

ナオトはサカドウ君の下の名前。ピエロのような人は背格好、声からして、男の人。やっぱり、サカドウ君を心配しているあたりグルなんだ。刃物の飛んできた場所からこの人が投げていたんだろう。ニ対一、しかも相手は武器をたくさん持っていて、能力みたいなものも使える、それに対して私は丸腰JK。圧倒的に不利すぎる。ここは逃げないと。私は近くにあった机をまとめて押して、サカドウ君たちと扉の間に積み重ね、極めつけに机を一つサカドウ君たちにかまして、反対側の扉から飛び出た。

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