この別れに乾杯を

雪崎綾乃

前夜祭のようなもの

「今日もお疲れ〜!」

 カランっとグラスの中の氷が鳴る。

「それにしてもお前誕生日前なのによく暇してるよな」

「彼氏居なくて悪かったな!お陰で残業出来るから残業代が稼げますよーだっ!」

 向かい合わせにいるこいつはククッと笑いながら私に毒を吐く。

「岬だって誕生日前後暇なくせに」

「俺は仕事が恋人なんだよ!」

「私だってそうですぅー!」

 本当にこいつは誕生日前日だと言うのに相変わらずだ。

 ムカつくから奢らせよう。

「すみませーん、梅酒ロックください」

「お前程々にしとけよな……」

 呆れ顔でそう言われた。

「どうせ彼氏居ないから暇だろ?明日呑みに行こうぜって誘ってきたお前が悪い!」

 1番高いお酒でも頼んでやろうか。

「いや、お前に浮いた話を聞いたのがもう10年前のような気がして……。あれ?高校の時か?」

「10年前じゃないしー!8年前!大学の時だよ!」

「変わらねえだろ」

「変わる!お前の奢りってことで高いの頼むからな!」

 がるるるっと怒ってますオーラを出しながらメニューを眺めていると、ガサッとテーブルに置かれたラッピング袋。

「何これ?」

「見れば分かるだろ、誕プレ」

「去年貰ったブレスレットも重宝しております。今年は何だろうな〜?」

「見れば分かる」

 開けてみろ、と促されて私は不器用ながらも解いた。

「え?またブレスレット?新作?」

 出てきたのは私の好きなブランドのアクセサリーケース。

 去年のプレゼントもこんな感じで渡されたっけな……。

「まあ開けてみろって」

「……は?」

 開けてみるとシルバーに輝く2つのリング。

「20年間友達だったけど、俺自覚したんだ。榛名のことが好きだって。20年って節目だし丁度いいと思った」

「あのさ、これ断ること予想してないよね?」

「お前が付き合うならペアリングは此処のやつって言ってただろ?!」

 ああ、確かに言った覚えはある。実際にお目にかかるとどうしていいか分からない。

「どうしても今年は……今年からは特別な関係で迎えたかったんだ」

「名前」

「は?」

「特別な関係って言うなら名前で呼んでよ」

「瑞希、付き合ってほしい」

「言うの遅いわ。バカ岬!」

 ペアリング嵌めて私は笑う。

「名前で呼べよ!」

「とっくに呼ぶ予行練習繰り返してたもん。小学校の時から大好きよ、悠翔」

 クスッと笑って誕生日当日5分前にワインで乾杯した。

 友達という関係に別れを告げて、新たな関係を手に入れる。

 私達にとって、この20年間はかけがえのないものだった。

 そして、これからも……。

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この別れに乾杯を 雪崎綾乃 @Ayano_snow

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