第二章 6 feat.cooler

6

 ズガーンっ!


 と、盛大な音を立て、僕が半身になって躱した巨人の腕が地面にめり込む。


 直前での回避だったために、巨人は止まり切れずにこのような間抜けな格好を晒したらしい。


 完全に体勢を崩した巨人――いや、違う。巨人型ゴーレムだ。

 右腕の切断面が、血の流れないゴーレムのそれである。

 僕は巨人型ゴーレムの腕を駆け上り、首の後ろを視界に捉える。


 ゴーレムには核と呼ばれる制御装置が存在する。

 それは何だか不思議な感じがして、このゴーレムは首の後ろよりにそれが感じられる。


 しかし、巨人の首は直径1m近い。そして踏みしめる感触から、鉄に準ずる強度を持つ素材で出来ていることが分かる。

 それでも――いとも容易く腕を斬り落としたこの剣ならば、出来る。


 僕は、慌てて起き上がろうとするゴーレムの、不安定な足場の中で剣を振りかぶり、


 ――どおぉんっ


 首を貫かれたゴーレムは、地に伏した。


 1拍置いて観客席から耳をつんざく大歓声が起こる。

 歓声の中には、結構な割合でブーイングが混じっているようだが。


「……な、なんと、飛び入り参加の剣士と魔術師が、常勝無敗の東の巨人の王に勝利したぁー!しかし、これはどいうことか!東の巨人の王はゴー…むぐっ!な、なに……」


 観客席からざわめきが起こる。


「し、失礼しました。東の巨人の王はこれより救護班に運び出され、手当を受けるようです。なお、東の巨人の王の右腕は義手であったようで、今後の復帰もある得るかもしれません。それでは、勝者の2人に盛大な拍手を!」


 大きな拍手が生まれる。


 しかし、確かにゴーレムだったと思うのだが……それに、もう事切れている。

 ゴーレムなんて、1度核が破壊されればもう使えない。


 手当というのは、これがゴーレムであることがバレたくないがための方便だろう。

 でも、それならばなぜアナウンスの人は復帰の可能性があるとわざわざ言ったのか。


 謎は深まるばかりだが、そもそもこの状況をあまりよく飲み込めていない。


 しばらくしてゴーレムが回収されたあと、俺と女は救護班の1人に連れられて、革張りのソファがある部屋に通された。


 そこで待つこと5分。

 ひたすら続く気まずい沈黙に我慢できなくなった僕は女に話しかけた。


「なぁ女、ユナさん大丈夫だと思うか?」


 と、俺は何気ない話題を提供したつもりだったのだが……。


「ねぇあなた、ホントに変よ?……あ、もしかして――我が呼びかけに応え、悪しきを我に示せ〖状態異常把握〗」


「な、高位の魔法をそんなに短い詠唱で!?」


「なるほど……あなた、私の魔術の副作用でこうなってたのね……記憶の欠損と、術者への無関心か。また厄介なものを……」


「な、何を言っているんだ?」


「はぁ……良い?私はニグルムがパンの木を倒した時、ニグルムに対して魔術を使ったの。魔術には必ず副作用があって、私はいかなる副作用であろうと無効にできる体質を持つ。でもその副作用が魔術を使った対象にまで及んだ時はその限りではない。だから、私が魔術を使ったことでニグルムの記憶が一部消え、私に対する関心が大きく薄れたってわけ。私はシャル、改めてよろしくね。」


「な、なるほど……?まぁそうか、よく見れば確かにお前美人だもんな」


「な、なによ……そ、そんなこと言われても別に嬉しくないんだからね……」


 何やらゴニョゴニョ言っているが、僕はこいつ……シャルの話した内容を理解するので精一杯だ。と、その時、


 ガチャり


 扉を開ける音が鳴り響いた。

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