超能力開発研究所ー所長ー濃緑有木

nau

第0話「私、宣言します。」

「綺麗に映っているか」

「問題ありません」

「凛々しく映っているか」

「それはもちろん」

「知的に映っているか」

「いつも知的ですよ」

「そうか、なら始めよう」


 咳ばらいが聞こえ、ようやく暗転してた画面に映像が映し出された。


「私の名前は濃緑有木のうりょく ありき。超能力開発研究所所長にして、この世で最も強い超能力者だ。この動画は私と同じく通常の自然現象ではありえない特殊な能力を持った者たちに送る、私からのメッセージだ。よく聞いてほしい」


 画面の向こうからわざとらしい咳払いが再度聞こえ、知名度皆無の男の顔が画面いっぱいに映し出される。


「日本に住む全超能力者たちに告ぐ。これまで自分の能力に怯え、隠れてきた者たちよ。これより新たな時代がやって来る。超能力者のための超能力者だけの世界。それを我々の手で創ろうではないか。真に求める理想郷はもう目の前だ。さぁ集え、志を同じとする者どもよ。これは時代の幕開けだぁぁぁああああ!!!」


 男が叫び、動画はそこで終了した。


 某動画配信サイトにひっそりと投稿された約40秒ほどの動画。さざ波一つ立てることなく、その後、数多の人気動画によって存在さえも忘れ去られた悲しい映像。世間の人々は誰一人として注目せず、その後の再生回数も雀の涙。日々繰り返されるネット内の厳しい現実が今日も一つの努力を無駄したと誰もが思ったことだろう。

 しかしまだ、誰も知らなかった。

 数年後、その動画が世界中のありとあらゆる地域で再生され、世界一有名な動画になるということを。

 時代の変革はこの投稿をきっかけに始まった。今更気付いてももう遅い。時代の変革とはいつの世も突然起こり得るものなのだから。

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