第666話
「・・・」
「頼む・・・、ディア」
「ふんっ」
膝をしっかりと突き、懇願と呼べる姿勢でディアへと頼み込む俺。
既に一時間以上はこの状況が続いていたが、未だディアは話をある方向に進めようとすると、絶対拒否の構えをみせていた。
「ディア様、真田様も困っているようですし・・・」
「そうです。何より・・・」
「ううう〜?」
「「っ⁈」」
そんな俺とディアの状況に、助け船を出してくれたディアの側近を務めている二人の狐の獣人。
然し、俺の腕の中でこの状況を作っている原因が声を上げると、二人は身構えたのだった。
「い、いえ、大丈夫です」
「そ、そ、そ・・・」
「え〜と?」「う?」
中々、分かりやすく動揺している様子に、俺とレイナは同時に首を傾げたのだった。
「ほんと、ちゅかさはまぬけ」
「お、おい、そんな言い方って無いだろう?」
「じじつ‼︎」
「・・・」
見据えるというよりは、子供を叱る様な仕方さなそうな視線を向けて来るディア。
確かに、間の抜けたお人好しの行動ではあるだろうが、今更捨てて来る訳にもいかないだろう。
「さ、真田様?」
「はい?何でしょうか?」
「そ、そのぉ・・・」
「・・・」
「・・・」
「う?」
「っ⁈」
レイナの一挙手一投足に、分かりやすくビクついているディアの側近。
「そいつは、まだあかんぼう」
「そうだけど?」
「しかも、きゅうびだから、とつぜんちからをぼうそうさせてもふしぎじゃない」
「あ、あぁ・・・」
ディアからの説明に、やっと側近達の反応の意味が理解出来た。
(確かに、凪が赤ん坊の頃はローズもナーバスになっていたしなぁ)
ただ、だからといって、他にレイナを受け入れる場所は無いし・・・。
「陛下にも、此処で育てるなら構わないと許可を得ているんだ」
「あいつはべつにここのおうさまじゃない」
「そんな事を言うもんじゃないぞ、ディア?」
「ふんっ」
室内には王国からの役人は居ないが、ミラーシには滞在しているし、事実とはいえ、郷の運営がサンクテュエールの協力を得て成り立っている以上、滅多な事を口にするべきではないのだ。
「ディア?」
「なに?」
「やはり、此処で受け入れた方が良いのでは?」
「・・・」
「そうですね。九尾というだけでも、希少な存在ですし、外の世界で暮らしていくのは正直なところ危険が多いかと?」
「かんけいないっ」
「「・・・」」
側近の説得にも、強情な態度を崩さないディア。
然し・・・。
(レイナの存在にビクついているわりには、さっきから受け入れに反対はしないんだよなぁ・・・)
そこら辺が少し気になるところではあるが・・・。
(まさか、レイナを自分達で育てて、其の力を使って良からぬ事を考えたりしないだろうな・・・)
そんな事の無い為に、王都から役人を派遣して、監視も行なっているし、何より、最近は王国から導入される様々な制御装置の便利さから、此処ミラーシの者達は、人族に対して昔みたいに見下す態度も減っているとの連絡を受けているなだが・・・。
「ですが、やはりエルマーナ様のご息女ですし」
「そうです。外の世界で良からぬ事件などに巻き込まれる事があれば一大事です」
「いまのおさはあたし」
「勿論です。それは誰一人として否定致しません」
「その通りです。ディア様」
「・・・」
側近達がエルマーナの名を出した事で、自身の現在の立場を確認する様な事を口にしたディアだったが、側近達はそれは疑いようの無い事だとハッキリと示したのだった。
(ディアの事は過去も含めて認めているが、裏切ったとはいえエルマーナへの想いも複雑なものがあるという事か・・・)
「どうする?」
「なにが?」
「どうしても、此処で暮らせないなら、他の手を考えるしか無い。俺も時間が無いし、早めに答えを出してもらいたいんだ」
「・・・」
「とりあえず、連れて行くか?」
一度諦めて、とりあえずレイナを連れて帰ろうとした俺だったが・・・。
「いい」
「ん?いいって・・・?」
「おいていけばいい」
「本当に良いのか?」
「あたしはしんないっ」
「・・・」
「でも、さとのものがめんどうみるでしょ」
「良いんですか?」
「ええ」
「お任せ下さい」
俺が視線を向けると、ディアの側近達は姿勢を正し頷いてくれたのだった。
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