第659話
其の巨体の下に漆黒の霧が広がり終わると、巨体に再び閃光の詠唱が刻まれ、其れから微かな光を漆黒の霧が飲み込んでいく。
「っっっ‼︎」
それとと同時に全身に広がっていく疲労感。
其れは、全身のパーツを全て斬り捨てて付け替えたくなる程のもので、実際刃を突き刺した方が楽だと断言出来るものだった。
《あ・・・、がっ‼︎》
然し、唸り声を漏らし、此方を見下ろして来るルグーンの双眸には、思考を取り戻し始めた様に見える。
(この短時間で回復し始めるという事は、流石に魔流脈も強力って事か・・・)
その状況に、自身の精神に鞭を入れる俺。
(此処で魔法を引いてしまえば、勝利は無いからな‼︎)
「つつつぅぅぅ‼︎」
既に両膝と掌は地面に突き、万が一ルグーンが意識を完全取り戻して攻撃をして来たら、俺は無防備な状態で其れを受けて倒れる事になるだろう。
(それでも、やるしか無いだろう・・・)
俺は掌で地面を押し、何とか立ち上がり・・・。
「チマー‼︎」
その巨体の何処かに囚われているだろうチマーへと呼び掛けた。
《ぁぁぁ・・・》
焦点を小刻みに揺らしながら、漏れる唸り声はルグーンのものなのか?
それともチマーのものなのか?
(まぁ、ルグーンのものなら騙しに来る可能性もあるがな・・・)
そう考えると、この反応も真の反応かは分からず、此方の隙を突こうとしている可能性も有るのだが・・・。
「っっっ‼︎」
身体の中から血肉以外全ての外から取り込んだ物を吐き出しそうな程の苦しさに、上がりそうになった悲鳴を堪える。
(此処が我慢のしどころだからな・・・‼︎)
うっかり子供達を吐き出してしまえば、足枷になってしまう。
その思いが、何とか俺をギリギリのところで踏み止まらせていた。
(良し・・・‼︎)
その巨体に刻まれた閃光の詠唱を全て飲み込み。
俺は後ろに倒れそうなのを堪えながら、顔を上に向けると・・・。
《・・・》
立ったまま、気絶でもしている様に無言になった、チマーの身体の中にいるルグーン。
その口元を凝視するが、呼吸をしているかも疑いたくなる状況だった。
(まさか・・・、状況的に森羅慟哭を使用してはいけなかったとか無いよな?)
ただ、そうだとしても此の手を使うしか、対応のしようが無かったし、仕方が無いといってしまえば、其処迄なのだが・・・。
「・・・っ、ふぅ〜」
取り敢えず、傷薬と魔力回復薬で身体を休めるが、一息吐く間も無く・・・。
「執行人による紅蓮の裁き‼︎」
チマーの巨体の周りに、爆炎の罠を詠唱していく。
(闇魔法が通用しない以上、此れか、終焉への蒼き血潮しか通用する魔法は無いしな・・・)
「聖跡に芽吹く蒼薔薇の息吹はさっき使った時には効果は無かったが、もう一度掛けてみるかな」
閃光の詠唱を飲み込んだのだから、先程とは状況も変わっているし、賭けに出てみるのもいいだろう。
(まぁ、先に対応出来る準備はしとかないとな・・・)
そう思い執行人による紅蓮の裁きをチマーの巨体の周囲に、無数に詠唱していく俺。
《・・・》
そんな状況でも、チマーとそのながらに居るルグーンには何の反応も無かった。
「・・・っ」
腹に溜まる魔力回復薬の水分に、若干の気持ち悪さを覚えながらも、チマーの巨体へと腕を伸ばした俺。
「吉と出るか?凶と出るか?」
周囲を確認しながら詠唱を結び・・・。
「聖跡に芽吹く蒼薔薇の息吹」
魔法を唱えると、素早くチマーから距離を取ったのだった。
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