第651話


 ルグーンの光を飲み込む様に着弾した闇のエネルギーは、空一面に広がりをみせ、周囲の天地全てが闇の世界へと塗り変えたのだった。


「ぅ・・・」


 視界を覆う圧倒的な闇に、俺は自身の視力が失われたかの様な感覚に陥り、其れに抵抗する様に眼球を激しく動かした。


「っ・・・」


 本当なら目を閉じた方が感覚的には楽なのだが、状況がいつ動くか分からず其れをする訳にもいかずにいた。

 やがて骨身に襲い掛かっていた衝撃が収まっていき、黒一色に染まっていた視界に・・・。


「白・・・?」


 爪先程の白一滴が落ち、自身の瞳に映るものを疑う様に目をパチクリさせた。


(何だ、あれは?)


 位置的にはルグーンなのだろうし、明らかに先程迄に比べて光は小さなものに変わっている。


(まさか・・・。でも)


 然し、流石にあの威力の攻撃を受けて無事でいるというのは、不自然な感じがする。


(どういう手を使ったんだ?)


 チマーの闇とスヴュートの光という相反し互いに耐性を持つ因子に、ムドレーツによる改良を施しているとはいえ、其の圧倒的な力の差を埋める事が可能なのだろうか?


(まぁ、実際奴が存在する以上、其れを認めるしか無いのだが・・・)


「っ⁈」


 そんな風に戦況を見守っていた俺の瞳に、遂に奇妙な魔力の流れが飛び込んで来た。


「チマー‼︎」

《分かっているさ‼︎》


 当然とばかりに迎撃態勢入ったチマーは、再び極大の闇のエネルギーを一瞬で溜め終える。


〈・・・〉


 然し、魔力の流れは見えるのだが、いつもなら此方を不快にさせる程饒舌なルグーンは、一切の言葉を発して来なかった。


(何か狙いがあるのだろうが・・・)


 その狙いが何か分からないし、チマーは絶対的な力で其れを実行される前に、ルグーンを滅ぼすつもりらしく・・・。


《悪足掻きは、終わりにしな‼︎》

〈・・・〉


 ルグーンに吐き捨てる様に告げたが、当のルグーンは何の反応もみせずに、最後の一撃になるであろう極大の闇のエネルギーを無抵抗で受け入れる。


(此れは・・・)


 再び大気を通じて襲い掛かって来る衝撃は、先程と変わらず、極大の闇は一雫の光をあっさりと飲み込んでしまったが・・・。

 然し・・・。


「な、何だ⁈」


 極大の闇に飲み込まれた一雫の光は、微かな輝きから、眩い煌きへと明るさを増し・・・。


「そんな⁈」


 其れに勢いを得た様に、空一面の闇を斬り裂く様に、無数の一閃を放つ。


(螺閃⁈)


 自身の魔法と闇と光の違いはあるが、良く似た光景に、一瞬俺は身体が固まってしまうが、閃光が通過していった俺の身体には傷はおろか、何の変化も無かった。


《ちっ‼︎何だい⁈》

「チマー⁈どうして⁈」


 俺の身体は何の反応も無く通過していった閃光だったが、チマーの其の巨体には絡み付く様に、無数の光の線が刻まれ、其の線は紋章を刻む様に変化していく。


「大丈夫か⁈」

《な・・・、訳無いでしょ‼︎》

「っ‼︎」


 勿論、俺だってそんな事は分かっていたが、チマーも此の策は想像していなかったらしく、流石に慌てていた。


「ちっ‼︎どうすれば⁈」

《此れは・・・?そういう事か‼︎》

「どういう事だ?」


 何かに気付いた様な声を上げたチマーに、俺は問い掛けるが・・・。


《直ぐに、逃げるんだ‼︎司‼︎》

「どうして⁈」

《原理は分からないけど、かなり不味い魔法陣を刻まれてる。此の詠唱が完成したら、今の司じゃどうにもならないんだ》

「どういう事なんだ?話が掴めないぞ?」

《いいから‼︎》

「っ⁈チマー・・・」


 余りの急展開に、俺は状況の説明を求めるが、チマーは一切の猶予も与えぬという態度で、大声を張り上げた。


《子供達を連れて、早く此の大陸から離れておくれよ》

「な・・・」

《このままじゃ、ボクは・・・》

「お、おい?」


 俺に懇願する様にしていたチマーは、徐々に完成していく詠唱に、遂に其の巨体を大地へと伏せ・・・。


《きゃあああぁぁぁーーーぁぁぁ‼︎》


 初めて耳にする悲鳴を上げたのだった。

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