第650話


「・・・収まったか?」


 夜空に広がっていた轟音を伴う振動が収まり、俺は文字通り其の背に月を背負う形で地上へと視線を向ける。


「お・・・、ぉぉ」


 余りの光景に思わず漏らした声は何の意味も無いもので、俺はただただ呆然としてしまった。


(地上に盆地が・・・)


 チマーの前方の深く抉れた大地は、突如として盆地の其れとなっており、もう一度同じ所に同じ衝撃を与えたら、此のジェールトヴァ大陸は海の底へと沈んでしまうのでは無いかと思ってしまう。


《・・・》

「チマー・・・」

《何だい?》


 盆地の底に刺さったチマーの上半身へ向かい声を掛けると、盆地に響かせた様な声が返って来る。


「殺ったのか?」

《いや、まだ粘っているみたいだね》


 俺からはチマーが邪魔になって、その先に居るであろうルグーンが見えず声も聞こえない為、奴の安否は分からなかったが、チマーの声には油断は無く、其の生命の鼓動を感じ取っている様子だった。


(そもそも、打撃の様な直接攻撃が通じるのか?)


 当然チマーも、ただ肉体だけで打つかっていった訳では無いだろうが・・・。


(可能性として考えられるのは、闇のエネルギーによる攻撃よりは、大陸に掛かるダメージを細かな調整が出来そうだが・・・)


《まぁ・・・》

「ん?」


 地上を見下ろすと、チマー背の人なら三角筋に当たりそうな箇所に動きが見え、俺は良くない予感にチマーの上空から距離を取る。


《此れで・・・‼︎》

「おい‼︎」


 チマーが盆地の底に沈めていた上半身を勢いよく起こすと、闇の大地に漆黒の塔が立ち、その最上部であるチマー口元には・・・。


〈・・・〉


 かなり発する光の弱くなり、反応の無いルグーンが咥えられているのが見えた。


(何をする気だ⁈)


 チマーはその巨体を起こした勢いのまま、ルグーンを上空の先、宇宙迄届きそうな勢いで放り投げ・・・。


《っっっーーー‼︎》


 刹那の間で、自らの眼前にその巨体に及ぶ程の闇のエネルギーを溜めた。


(其れは・・・、そうか‼︎)


 自らの想像など及ばない、次元の違う力に妙な納得をさせられる俺。

 確かに、其れが地上に放たれてしまえば、此のジェールトヴァ大陸は勿論の事、周囲の海域に迄影響を及ぼし、其れは最終的に此の世界をも滅ぼしてしまうだろう事が想像出来た。


《ガアアアァァァーーーァァァ‼︎》


 チマーの咆哮は、抉れて亀裂の生じたジェールトヴァ大陸に響き渡り、其の先の海迄も揺らし、生じた海嘯が此の大地の端届くのが視界の端に映った。


「くぅぅぅっっっ‼︎」


 然し、俺も自身を守るのに精一杯で、其れを気にしたのは一瞬。

 撃ち上がる闇のエネルギーの激しさに、その進行方向にあった大気は、其の全てが爆ぜる様に押し出されて、其の衝撃波は俺の疲労しきった骨身に襲い掛かって来た。


〈・・・〉


 永遠の間の様な一瞬が終わりを告げ、標的であるルグーンへと達した闇のエネルギー。

 狙われたルグーンは気を失っているのか?

 それとも狙いでも有るのか?

 何方にせよ、其れを無抵抗で受け入れる形になっていたのだった。

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