第648話


「・・・」


 やがて闇が晴れていき、明らかになる本来の姿のチマー。

 俺はチマーからかなり距離を取った筈だったのに、眼下に迄迫っている巨体の一部である肩部に言葉を失ってしまう。


(ゼムリャー程では無いが、リョートよりはデカそうだな・・・)


 俺は過去に闘った事のある、本当に山の様な超巨体を誇る地の神龍とチマーを比較する様に観察したが、その視線に気付いたらしいチマーは・・・。


《何だい?レディーに対してそんな不躾な視線を送ってさ〜?》

「お、お・・・、ぉ」

《失礼だな〜》


 チマーはというと、俺のそんな様子に気にした感じも無く、軽い調子で揶揄う様な言葉を告げて来たが、声色そのものがかなり変わっている為、その不自然さに俺はまともな返答をする事が出来なかった。


(でも、実際問題どうなんだ?)


 チマーが軽い調子の返答だった為、俺は観察を続けるが、最初圧倒的な巨体に言葉を失った俺だったが、此の状態のチマーの力に疑問符も浮かんで来る。

 流れる魔力の量が増した訳では無いし、強力な生命力の様なものも感じない。


(チマーの戦闘スタイルにリーチは殆ど関係ないし、ある意味攻撃を躱す事が出来なくなっただけじゃ・・・?)


 チマーの鉄壁を主張する漆黒の体躯に、ルグーンの攻撃が通じないという話も勿論あるだろうが・・・。


〈久し振りに目にする事が出来ましたねぇ・・・。そのお姿〉

《何だい?覗き趣味もあるのかい?》

〈ふふふ、非道いお方だ〉


 互いの存在は知っていたが、面識は無かったチマーとルグーン。

 その為、本当に懐かしむ様な声を上げたルグーンを、チマーは冷たく遇らったのだった。


《ボクももう数百年は戻っていなかったしね〜》

〈なる程、そうでしたか〉

《瞳に焼き付けて、感謝しながら逝きな?》

〈ふふふ。流石にお断りしたいですねぇ〉

《遠慮は無用だよ?》

〈ほぉ・・・〉

「っ⁈」


 大地に漂う闇が意志を持った様に、ルグーンへと巻き付いていくのが目に入り、俺はその様子に背筋に嫌な寒気を感じる。


(此れは・・・、チマーの発しているものと、大地に漂っているものが混ざりあっているんだ‼︎)


 チマーから発される其れは止め処なく生まれ出て来て、既にどの位の範囲迄広がっているかは判別出来なくなっていた。


《ボクは弱い者虐めは嫌いだから、最期迄その生意気な態度を続けるんだよ?》

〈ふふふ、ご期待に沿・・・、っっっ‼︎〉


 チマーへと態とらしく応え様としたルグーンだったが、其れはチマーによって遮られてしまう。


〈うううぅぅぅっっっ・・・、がががあああーーー‼︎〉


 ルグーンを形成する光に巻き付いた闇は、激しさは感じなかったが、僅かに其の力を強めた様に見え、その瞬間にルグーンを形成する光は逃れる様に揺れながら、奴のものとは信じられない程の悲鳴を周囲に響き渡らせた。


《さっき迄の余裕は何処に行ったんだい?ちゃんと我慢しなきゃ駄目だよ?》

〈っっっーーー‼︎〉


 穏やかに子供を諭す様な口調でルグーンへと語り掛けるチマー。

 然し、当のルグーンはというと、既に存在しない喉を潰された様に声にならない声で絶叫をするだけだった。


(肉体を失っているルグーンを掴めているという事は、攻撃自体は有効の様だが・・・)


 ルグーンが一流の役者という事も考えられるが、流石に此の苦しみ様が演技とは考え辛いのだった。

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