第641話
「離れてな?」
「・・・あぁ」
正直なところ、過去に颯と凪を攫われた事に、今日の件も含めて、俺の手で仕留めたい気持ちもあったが、流石にチマーと揉めるのは不味いのと、もう一つの理由から大人しく其の言葉に従い空へと向かったのだった。
「ふぅ〜・・・」
頬を伝った汗を手の甲で拭い、深めの一息を吐く。
「あまり長引いて欲しくは無いが・・・」
チマーの言葉に大人しく従ったもう一つの理由。
影へと沈めている子供達の負担で、かなりのダメージを喰らっているという事。
(逃げていた方が安全なのかもしれないが・・・)
自身で手を下したあの子達への責任として、此の眼でチマーがルグーンを仕留めるところを見届ける必要がある。
そう考えて、此処に残る事にしたのだった。
(取り敢えず・・・)
「・・・っ」
魔力回復薬を一気に飲み干し、減っていた魔力を補充する。
(此れも一応マジックアイテムなんだが、流石に効果は有るな・・・)
ルグーンの使用したマジックアイテムを封じる術がどんなものかは分からないままだが、魔力回復薬が使用出来るという事は、マジックアイテムの中でも、其れに魔力を注ぎ発動する物だけが使用出来なくなっていると想定出来る。
(とにかく、今は少しでも情報だな・・・)
子供達への責任と状況の確認の為、地上を見下ろす俺。
その視線の先では、芝居がかった身振りのルグーンと、其れをつまらなそうに眺めるチマーが対峙していた。
「ふふふ、どうですかね?地上での暮らしは?」
「キミと世間話なんてするつもりは無いよ?」
「ふふふ、非道いお方だ・・・。そういうところは、彼の地・・・、創造種の楽園に居た時から変わりませんねぇ」
「随分と昔だからなのか?それとも、その価値が無いからなのか?キミの事なんて覚えていないよ」
「ふふふ、本当に非道いお方だ・・・」
確か、以前にアッテンテーターでこの二人が出会った時、ルグーンは初めて会った様な挨拶をしていて、チマーはその名に聞き覚えがある様な反応をしていたが・・・。
チマーの言葉は、子供達の件に対する怒りからか、本当にルグーンと余計な話はしないという態度を示していた。
「さぁ?始めようか?」
「出来れば、ご遠慮願いたいですが・・・」
「キミにその権利は無いよ」
「ふふふ、残念です」
「思っても無い事をベラベラと・・・」
どんなに烈火の如き怒りを内に秘めていても、意外と冷静な台詞と口調だけを口にしていたチマー。
然し、延々とルグーンが態とらしい態度を改めない事から、遂にその声色に明確な怒号を込めたのだった。
(チマーも注意してると思うが・・・)
チマーがルグーンに集中している様なら、周囲の異変に気付かない可能性も有ると思い、俺は魔力を注いだ瞳で周囲を警戒した。
(取り敢えず伏兵の可能性は無い様だが、マジックアイテムの反応は探れ無いからなぁ)
周囲から魔力や生命力の様なものは感じなかったが、其れは飽く迄も取り敢えずのもので、ルグーンは増援を呼び寄せる魔法を使用可能なのだ。
(そういえば、此奴の他の魔法といえば・・・)
もうかなりの時が経っていたが、リエース大森林で子供達を攫った此奴等と闘った時に、スラーヴァを龍神結界・遠呂智で仕留め様とした時に、風の魔法でスラーヴァを助けたのを見た事が有るが、他に戦闘向きの攻撃魔法を持っているのか?
其れに、もし其れが有るとして、ルグーンの事を知らない発言は態ととしても、チマーは其れを知っているのか?
チマーの絶対的な強さに、一抹の不安が過ぎる俺。
(チマーはきっと創造主以外の存在にやられる事なんて想像した事は無い筈だし、ルグーンは其処を突いて来るだろう・・・)
まずあり得ない事だろうが、二人の闘いに番狂わせが起こるとすれば、其処だけだろう・・・。
(ただ、そんな事になれば、子供達の件もあるし、一気に状況は危険なものになるが・・・)
チマーとは深い関係では無いが、その力だけは絶対的に信じられる。
そう思い、俺は警戒も含めて、其のバックアップが出来る様に、対峙する二人と周囲への警戒を一層深めたのだった。
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