第615話
前方に立つグロームは威風堂々。
龍人型に迄縮んでいたが、二本の腕と脚を手に入れ、其の身を包む深緑の鱗からは強靭な体躯迄は失っていない事が理解出来た。
「・・・っ」
たとえ此奴が人型になり、其の体長が縮んだとしても、やる事は変わらないと一呼吸の間で落ち着きを取り戻す。
(身体を縮めて、装甲が落ちるなんて間の抜けた事は無いだろうしな)
俺の攻撃の中で最強を誇るのは螺閃。
其処に変わりは無いのだし、此れをどう当てるかが鍵となる。
(このリーチの差だと速度差の影響は受けやすいが・・・)
「とにかく・・・、雨」
気負いを伴う気合いなど必要ないと、終盤詰みに向けての初手である漆黒の雨を詠唱した俺。
(チマーから貰った闇の因子の効果は絶大だな)
此の雨も又、絶大な威力を持つ魔法だったが、過去には自身にも牙を剥く諸刃の刃だった。
然し、チマーより得た闇の因子は、漆黒の雨を浴びる自身を守り、少し熱を帯びた身体を落ち着ける心地良いものとしてくれた。
「・・・」
対するグロームは、其の身を雷光に包み込み守っていたが、徐々に細かな傷が刻まれていき、雷光の先に滴る血の紅が覗いていた。
「・・・」
そんな漆黒の小雨降り注ぐ中。
前方10メートル以上離れた先で、グロームの纏っていた雷光の輝きが増し、其の身が朧げになった・・・、刹那。
(来る‼︎)
悠然と立っていた場所からグロームの姿が消え、俺の左視界の端に微かな光が覗く。
「・・・⁈」
異変を感じ空に翔け出そうとした思考と、ただ恐怖から身を守る為に自らの脇を固めた左腕の反射。
「っっっ‼︎」
左腕を奥底で形成する骨に伝わる衝撃に、自身の反射の正解を理解する。
(躱すのは不可能だったな)
駆けるでなく翔けて来たのだろう。
俺の左側面へと立つグロームは、自身の手刀を受け止めた俺を見て・・・。
「・・・」
ニヤリと不敵に其の牙を覗かせた。
「お気に召して・・・」
「・・・」
手刀を受け止めた腕を軽く身体に寄せ・・・。
「良かったよ‼︎」
流れて来たグロームの顎へと、踏み込む事はせず、魔力だけを込め掌打を放つ。
「・・・」
「効いていないってか?」
首の先の頭部が揺れる様子に、決して一切ダメージを与えられなかった訳では無いだろう。
ただ、此方を見るグロームの双眸には、一切の感情の動きは無く、静かな悠然としたものだった。
「ならっ‼︎」
顎に掌打を打ち込んだ右掌と、手刀を受け止めた左腕で、素早く手刀を放っていたグロームの左腕掴み、左脚を踏み出しながら背負い投げる。
「ッ‼︎」
転がるグロームの表情に一瞬不快の色が張り付くが・・・。
「はぁ‼︎」
構わず追撃の踏むつけを放つ。
「くっ・・・」
然し、踏みつけを放った俺の右脚は、標的であったグロームへと着弾する事は無く、大地へと突き着けられたのだった。
「とんでもない奴だなぁ」
今度はハッキリとその動きを瞳で捉える事に成功した俺は、一見すると気色の悪い動きだが、完全にノーモーションで後方へと跳び、俺の踏みつけを躱したグロームへと感嘆の声を上げた。
(光速っていうのはこういう事をいうんだろうな)
直前に行ったルチルとの模擬戦で、素早い相手との闘いに目が慣れていたが、グロームの其れは完全に異次元のもので、跳んだ先で既に立ち上がり、此方へと構えをとっていた。
「此れから本番ってとこか?」
「・・・」
先程迄は構えなどとらなかったグロームへと、そんな言葉を投げ掛ける。
「なら・・・、霧‼︎」
漆黒の雨から生み出す様に、闇色の濃霧で辺りを包み込む。
「ッ・・・」
僅かに顰めたグロームの眉間に、俺は自身の魔法の効果を確信出来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます