第614話


「ふむ・・・」

「どうでしょうか?」

「急かすな」

「すいません」

「まあ、待ってやれ」

「はい・・・」


 定期の朔夜の研磨を行うアルティザンと、其れを見るクロート。

 今回は以降の激戦に向け、特に入念な仕事となっていた。


「うむ、何とかなりそうだな」

「そうですか・・・」

「ふんっ、そう落ち込むな」

「えぇ」

「小僧の言う通り、お主の腕が悪い訳では無い」

「ふんっ」

「・・・」

「此奴は確かに最上級の素材を、最高の腕で仕上げた業物ではあるが、彼の妖刀白夜とは違い、魔力を吸い、無限の刃を生み出す物ではない」

「はい・・・」


 これ迄潜り抜けて来た激戦の数々。

 其れ等は、確実に朔夜の寿命を削っていたらしく、そう遠く無い内に使用出来なくなると宣告されたのだった。


(まぁ、仕方の無い事だなぁ・・・)


 元来、俺の闘い方は魔法が中心だが、流石に此れから闘いを朔夜抜きで潜り抜けるのは不可能だろう。


「もう一本打ってもらう事は?」

「可能だが、同じ物が出来るとは限らん」

「ですよね」

「まあ、明日という訳で無し、大事に使ってやれ」

「はい」


 ショックが無い訳じゃないが、最後の闘い迄持ってくれれば万歳だろう。

 俺はクロートの言葉に頷くのだった。



「いよいよ・・・、か」


 常夜の日当日のアウレアイッラ。

 辺りは一面の漆黒に染まり、大地からは其れを上から染める様な闇が湧き出ていた。


「・・・」


 滞在した数日、一切の反応を見せずに、ただ悠然と漆黒に染まっていくアウレアイッラの空を泳いでいたグローム。

 闇色に染まり上がった空に、其処だけ一片の雲の大きさの雷光の輝きをのせ、俺を見下ろして来ていた。


「すぅ〜・・・」


 心地良い闇に染まった空気をゆっくりと吸い込み。


「はぁ〜・・・。良し」


 一気に吐き出し、覚悟を決める俺。


(皆んなはもう配置に着いてくれている)


 仲間達は既に住民達を避難させ、被害を最小限に抑える為に、魔力の壁を周囲に張ってくれている。


「逃げ場は無くなったぞ?」

「・・・」

「お前も・・・、俺も」

「・・・」


 グロームに応じる様に見上げながら、漆黒の装衣を纏っていく俺。


(長々と遣り合うつもりは無いが、闇の支配者よりの殲滅の黙示録を余り早く使用すると後半決め手を欠く可能性が有る)


 重要なのは螺閃にどう繋げるかだが・・・。


(大槍を形成する為に掛かる時間を、どう此奴の猛攻に耐えるかがポイントになるな)


 大地から湧き出て来る闇は漆黒の装衣を纏った事で、より一層心地良さを増し、身体は其れと意識しなくなる程に軽やかに応えてくれていた。


「ガガガ・・・」

「・・・」


 準備万端の俺に対し、ただただ宙を舞っていたグローム。

 散々、肩透かしを喰らっていた俺だが、やっとの事で口を開いたグロームは穏やかな声を発したかと思った・・・、次の瞬間。


「ッッッ‼︎」

「な⁈」


 溜め込んでいた全てを発散し解き放つ様な声にならない声を宙へと撃ち上げ、漆黒に辺りを染め上げていた闇を、全身から発した雷光により一瞬で払ってしまった。


「・・・っ」


 雷光による強烈な光に、視界を失ってしまう俺だったが、一瞬の眩さが嘘だったかの様に雷光は収束していき、目一杯閉じた瞼の先に再び心地良い闇が復活したのを理解する。


「・・・」

「な、な、な⁈」


 先程迄と変わらず悠然とした態度のグローム。

 然し、たった一つ・・・、言葉で表現する事を躊躇われる程の大きな変化を見せていた。


「お前がグローム⁈」


 理解はしているが、問い掛ける口調になってしまう。


「・・・」


 然し、雲程の巨大さを誇っていた身体は俺より頭二つ分上回る程迄に縮み、二本の足で大地を踏みしめているグロームは、其れに答える事は無いのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る