第600話


「奴等はスヴュートに何をしたんだ?」

〈因子が抜き出されたのは視えたが、その狙い迄は分からぬ〉

「狙いは、奴に其れを与える為じゃないのか?」

〈お主とて、自身とあの者の差は理解しておろう?〉

「・・・」

〈今更、あの者が因子を手に入れても、其の未来は変わらぬし、其れはこうして伝える事に何の問題も無いのだ〉


 俺が知らない事を伝えれば、此奴の望む未来が変わるのだろうし、此の発言自体は何の問題も無く信じられるもの。


「因子の他の使い道は?」

〈皆目検討も付かぬ〉

「本当か?」

〈うむ。そもそも、我は因子を持たぬし、其れで出来る事の全ての知識が有る訳ではないからな〉

「そういえば、そうだったな」


 アッテンテーターでチマーに出会った時、確かに因子を持つのは自身とスヴュートだけと言っていたし、此奴が深い部分の情報を持たなくても仕方がないのだろう。


「ムドレーツはそもそも楽園で何をしてた奴なんだ?」

〈何という役目も無い。そもそも、楽園の多くの者はそうした者達だからな〉

「そうなのか」

〈うむ。それに奴は中立派だった筈だ〉

「中立派?何だ、其れは?」

〈中立派とは、此の世界の者に害を加える事はせず、然し、我等の事も認めない者達の事だ〉

「勢力的には?」

〈数でいえば、我等よりも僅かに多く、その他の者よりも圧倒的に少ない〉


 要するに揉め事から背を向ける連中という事なのだろうし、理解出来ない話ではないが・・・。


「その手のタイプだったムドレーツが、何故、守人達に手を貸す事にしたんだ?」

〈守人達は、楽園側から見れば、境界線を守護する者達という意味合いもあるのだ〉

「秘術の継承者と追放者が手を組む事を恐れたという事か」

〈うむ。其れに起源種の可能性にもな〉

「可能性?」

〈そうだ。楽園の住人達は、起源種の事を下に見つつも、起源種も元を辿れば同じ創造主によって生み出された存在。自らと対等へと上がって来る可能性も否定していないのだ。そうして、その者達と追放者が協力する事で、自分達の想像も付かない新たな可能性が生まれる事を恐れているのだ〉

「用心深い事だな」

〈どんなに獣の様な蛮行に手を染めても、思考のそのものは人のものだからな。その為、万が一起源種達が楽園に辿り着く可能性も考え、その時にどんな復讐のを受けるかと恐れているのだ〉

「其れで、守人達に手を貸す事にしたと?」

〈可能性としては最も高いだろうな。変わり者の逸れ者ではあったが、奴とて創造主に対する信仰心は持っていたし、主人が眠りにある中で、楽園を守る道を選んでも不思議ではない〉

「なるほどな」


 勝手な話だと感じるが、奴にどんな事情があろうが、俺の目標は変わらない。


「話を戻すが、最後の鍵穴。・・・リアタフテのものは?」

〈其れは、お主が此れから向かう場所にある〉

「俺が此れから?」


 妙な事をいう奴だと思ったが、続けた言葉は此奴が俺の情報をしっかりと持ち、予知の力があると証明するものだった。


〈アウレアイッラ・・・〉

「っ⁈」

〈そういう名らしいな?召喚者達が、此のザブル・ジャーチの大地で身を寄せ合い暮らす国。彼の地にリアタフテの鍵穴は現れている〉

「アウレアイッラに、凪の鍵穴が・・・」


 告げられた内容に、俺は安堵にも近い感覚を得た事に気付く。


(彼処なら、正式な国交は無いとはいえ、サンクテュエールとも悪い関係では無いし、何より、召喚者の俺に対しては好意的に接してくれている)


 その為、俺の子である凪も、彼等から見ると同じ境遇の仲間となるのだ。

 そして、ヴァダーの言う通り此れから向かう場所だし、鍵穴の確認と交渉に新たな時間を割く必要もない。


「いよいよだな、司?」

「ブラートさん・・・。はいっ」


 ブラートの言葉通り、常夜の日は目前迄迫っていた。


「司なら絶対大丈夫よ」

「アクア・・・」


 俺とグロームのこれ迄を知らないアクアからは、強気なエールが送られて来たが・・・。

 勿論、日々鍛錬は続けていたが、それでも俺とグロームの差は最後に遣り合った時点で、大き過ぎたからなぁ・・・。


(まぁ、其れでもやるし、勝たなければ、未来もない訳だが)


「それと、今回こそは私も連れて行ってね?」

「そうだなぁ、手を貸して欲しいかもな?」

「司・・・、うんっ」


 嬉しそうに頷くアクア。

 ゲンサイには既に伝えているが、今回は本気でグロームを狩りにいく。

 そうなると、アウレアイッラにもかなりの被害が出るだろうし、アクアの魔力は被害を抑える為に役立つだろう。


「お前はまた眠るのか?」

〈うむ。次は決戦迄起こさぬ事を願いたいな〉

「お前が必要な事を全て伝えているなら大丈夫だろうよ」

〈我は対話が嫌いな訳では無い。無駄話なら起こしに来ても構わぬぞ?〉

「じゃあな」


 若干の嫌味に対して、面倒くさい返しをして来たヴァダー。

 俺は其れに応じる事はせず、背を向け歩き出すのだった。

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