第592話


「ゴゴゴ・・・」


 餌を前に喉を鳴らす様にしたゼムリャー。


「「「ギィィィ‼︎」」」

「土龍達か・・・」


 すると、其の身体から土龍達が生み出され、其奴等は生まれたばかりにも関わらず、ハッキリと狩るべき獲物を理解している様子だった。


「マスターの邪魔はさせません‼︎」


 其奴等の上空から銃撃の雨を降らせるルーナ。


「ギャァァァーーー‼︎」


 弾丸の雨を避ける為の傘など持っていない土龍達は、無抵抗の形で其の身に蜂の巣を刻まれ、やがて粉々に砕けていく土龍達。


「・・・」


 然し、ゼムリャーは自身の子ともいえる土龍達の無惨な最期にも、哀しみはおろか、怒りさえ示す事はなく、フェルトへといやに静かな視線を向けていた。


「おい‼︎」

「手出しは無用よ」

「っ⁈」


 ゼムリャーのそんな様子に、何かを仕掛けて来そうな事は分かっている筈だが、狙われているフェルトは俺の助太刀を許さなかった。


「ゴッッッ・・・」

「マスター‼︎」


 ゼムリャーが大咆哮への最初の一音を発した瞬間、フェルトの前方の地面に不自然な振動が起き、ルーナは全速力でフェルトへと翔ける。


「オオオォォォーーーンンン‼︎」


 ゼムリャーの大咆哮の中、不自然な振動をみせていた地面から、大地を裂く様に現れた、岩で形成された筋骨隆々な腕が、フェルトへと襲い掛かる。


「くっ‼︎」


 其れを間一髪のところでルーナが、詠唱中のフェルトの首襟を引き抱きしめ、空へと翔け上がるが・・・。


「くぅっっっ‼︎」

「ルーナ‼︎」


 岩石による拳撃は、直前迄フェルトが居た地面を抉り、強烈な風圧がルーナの背を襲っていた。


「大丈夫です‼︎」


 心配して掛けた俺の声に応えるルーナ。


(流石にあれを喰らう事はないだろうが・・・)


 ゼムリャーには他にも厳しい攻撃もあり、俺は計画を中止して欲しかったが、フェルトは構わず詠唱を続行していたのだった。


(然し、器用なもんだな・・・)


 並の遣い手なら、詠唱途中に身体に触れられただけでも、詠唱を遮られるものだが、フェルトの伸ばした腕の前には、規模こそ小さいが、然もかなり複雑で緻密な魔力の流れをもつ魔法陣が描かれていた。


(小規模なだけに、いまいち詠唱の進みが読みにくいなぁ)


 極大級の魔法となると、流れている魔力量で完成が読み易いのだが、フェルトのやっているのは、効率的な魔力運用で、限界迄緻密な魔力の扱い。

 その為、何処迄も詠唱を刻みそうにも見えるし、次の瞬間にも魔法陣が完成しそうにも見えた。


「グググゥゥゥ・・・」


 ただ、ゼムリャーはかなりの不快感を抱いているらしく、悠然とした態度を演じてはいる様に見えるが、鳴き声は声色は微妙な色だった。


「グルルルッッッ‼︎」


 フェルトへと不満気な視線を向けているゼムリャーは、前傾姿勢を取り肩をフェルトとルーナへと向ける。


「不味いぞ‼︎ルーナ‼︎」


 先程の拳撃から比べると、静か過ぎるともいえるゼムリャー。

 だが、此れから放とうとしている攻撃は、以前の戦いの時に俺に大ダメージを負わせた一撃で、其れを二人に喰らわせたくなかった。


「了解です」


 本当に理解しているのか疑いたくなるルーナの返事。

 然し、ゼムリャーがやろうとしている事は理解しているらしく、ライフルの上部に搭載された炸裂弾の部分に俺の見た事のない紋章を刻んだ弾を込めていた。


「グッッッガァァァ‼︎」


 喉に引っ掛かった痰でも吐く様な声を発したゼムリャー。

 すると、肩辺りから礫岩の弾が撃ち出され、ルーナとフェルトへと襲い掛かる。


「させない‼︎」


 其れを迎撃する様にルーナは、先程込めていた弾を撃ち出す。


「はぁぁぁ‼︎」


 射撃を終えると、ルーナは全力で自身の周囲にバリアを張り、其れで自分とフェルトを包む。

 そんな中、其々の弾が打つかる直前に爆発し、ゼムリャーの礫岩の弾は砂塵へと姿を変え二人へと襲い掛かる。

 一方、ルーナの撃ち出した弾は紋章が光を発し、二人へと襲い掛かる砂塵に対して魔力の楯を形成した。


(そういう事か‼︎)


 魔力の楯は残念ながら、砂塵によって破られたが、勢いの殺された其れでは、二人を包むバリアを破る事は出来ず、バリアの中へと飲み込まれていったのだった。

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