第580話
「司様‼︎」
「ん?・・・アナスタシア⁈それに、ブラートさん」
「無事だった様だな」
「え、えぇ・・・」
ヴェーチルから魔石を取り出し終えた俺の背に掛かった声に振り返ると、其処に立っていたのはアナスタシアとブラート。
二人も激戦だったのが想像出来る程、衣服には返り血や泥が付いていた。
「もしかして?」
「ええ。決闘は無事行われ、刑は執行されました」
「敵も全て倒した」
「本当ですか⁈」
アナスタシアの告げた内容も最高と呼べる結果だったが、更にブラートの続けた内容に、失礼ながら俺は信じられないという驚きの声を上げてしまった。
「ふっ、此奴を褒めてやるんだな」
「え?アナスタシアを?」
「大した事ではありません」
「そうだったかな?」
「貴方は少し黙っていなさいっ」
「ふっ、そうか」
「は、はは・・・」
体力切れになっていてもおかしくない見た目の二人の元気なやり取りに、俺は苦笑いを浮かべる事しか出来なかったが・・・。
「でも、其方に戦力が集中していたと思うんだが、よく全滅に追い込めたな?」
「え?そうなのですか?」
「え?いや・・・?ん?」
噛み合わない感じのアナスタシアとのやり取りに、俺は微妙な感じになってしまう。
「どうかされましたか、司様?」
「いや、スッ・・・‼︎」
「ス?何ですか?」
「いや・・・、仮面の男は其方に現れたんだよな?」
仮面の男イコールスラーヴァである事を伝えていなかった俺は、首を傾げたアナスタシアに慌てて言い換えたが・・・。
「いえ、現れていませんよ?」
「え?」
「敵の幹部達は此方に来ていたのでは?」
「・・・いや、二人だけだった」
「え?では・・・?」
顔を見合わせてしまう俺とアナスタシア。
「此方には誰が来たんだ?」
「ブラートさん・・・。エルマーナと・・・、ナヴァルーニイです」
「それで?」
「殺り逃してしまいました」
「ふっ、そうか・・・」
「・・・」
日頃、感情を表情に出す事の少ないブラートだったが、明確に残念そうな表情を浮かべていて、俺は少し嬉しくなってしまう。
(今更だが、それだけ信頼してくれてるって事だからなぁ)
「では、凪様の儀式は?」
「其方は無事に達成したよ」
「そうですか・・・。流石、凪お嬢様。ローズ様と司様の御息女です」
「・・・」
俺の腕の中で眠る凪に、日頃は期待の現れからみせる事の少ない、優しい視線を向けているアナスタシア。
「だが・・・」
「えぇ、気になりますね?」
「ああ」
守人側の狙いの優先順位は、ディシプルを押さえる事と、凪を捕らえる事だと思っていたが、此処にスラーヴァという最大戦力を投入しなかったという事は、別の狙いがあったという事だろうか?
「考えられるとすれば、ミラーシとディアですが」
「どうだろうな」
「フェルト様は可能性としては?」
「低いだろう」
確かに奴等はフェルトの兄であるアルヒミーと繋がりがあったし、フェルトが秘術を継いだ事を知っている可能性は高いだろうが、フェルトはほぼ単独行動かルーナと二人で居るのみ。
然も、彼奴は自身とルーナの生命以外は大して大事にする事は無いし、捕らえようとしてもアッサリ周りを盾にして、護符を使い逃げるだろう。
「そんな彼奴の優先順位は高くは無いだろう」
「そうですね」
「だが、そうなるとミラーシの可能性が高くなるし、直ぐにでも屋敷に一度戻ろう」
「そうですね」
勿論、リアタフテ領とミラーシの間にもかなりの戦力が集まっているが、万が一、ミラーシを落とされるとなると、リアタフテ領にも危険が及ぶ。
俺とアナスタシアはリアタフテ領へと急いだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます