第545話
転移の護符を使い帰りを待つ家族と国王への連絡の為、先程出立したブラートとシエンヌ。
二人を見送った後、俺と救世主、そしてアポーストルの残った空間は、薄寒さを肌に感じる沈黙に包まれていた。
「・・・」
「・・・で?何だ?」
「は・・・、ぃ」
いい加減、沈黙に耐えられなくなり、短く簡潔な言葉で問い掛ける俺に、救世主は叱られる子供の様に、掠れる語尾で返事をして来た。
(まるで、俺が責め立てている様な感じだなぁ)
正直なところ一切そんな気は無く、ただただ、家族の所へ戻りたいのと、手紙を預けているが、俺が同行していない事で、ブラートとシエンヌの発言に信用が有るのかが心配なだけなのだが・・・。
そんな俺と救世主のやり取りに・・・。
「司」
「・・・何だ?」
「もう少し、穏やかなトーンで喋れないのかな?」
「・・・」
不満を告げて来たのは、無言で俺と救世主と少し距離を取っていたアポーストル。
(そう思うなら、お前が進行役でも引き受けて、この状況を解消して欲しいものだがなぁ)
心の中で、そんなアポーストルに対する悪態が通り過ぎたが、せっかく此奴も先程迄の刺々しい雰囲気が消えて来たので、それを口にする事はせずに・・・。
「すまない。慌ててるのも事実で、貴女に対して悪い感情で接してる訳ではないんだ」
「い、いえ・・・。私の方こそ、すいません・・・」
あっさりとアポーストルからの忠言を受け入れ謝罪をすると、救世主は自身を落ち着ける様にしながら謝罪をして来た。
(結局、これが一番早く帰還出来そうだからな)
別に何も悪いとは思っていないが、謝罪をして救世主からの話を引き出す事にした俺。
「・・・」
「・・・」
然し、俺が無言で待っていても、救世主は無言になり、無駄な時間だけがやって来てしまった。
だが、流石に覚悟を決めたのか・・・。
「これからの事ですが・・・」
「あぁ」
「ディシプルでの決戦は激闘とはなるでしょうが、永き闘いに決着を着けるものとはならないでしょう」
救世主はその重い口を開いたのだった。
「そんな事迄分かるんだな?」
「ええ。そうですね」
「其れも、予知か?」
話の腰を折るかと思ったが、あまり理解は出来るが、納得出来る内容では無く、問いを掛けを抑えなかった。
「いえ、此れは予知等では無く・・・、経験の様なものです・・・」
「・・・?」
予知では無いという事を告げて来た救世主の口調は微妙なもので、俺は頭の中に疑問が浮かんだ。
(別に予知能力を誇る必要なんて無いし、これ迄の話でも自分の力を自慢する様な感じは無かったが?)
少し恥じる様な感じも有る救世主。
だが、救世主は俺の奇妙な表情に気付いて、その理由を告げて来た。
「すいません」
「いや・・・」
「経験なんて、私が一番口にするべきで無い言葉なのです」
「・・・」
「楽園に居る時は創造主の居から出る事が無く、ザブル・ジャーチに来てからは此処で過ごし続ける日々でしたから」
「あぁ・・・」
やっと救世主の口調と態度の意味を理解した俺は、然し、救世主に応えるべき言葉は見つけられなかった。
(囚われのお姫様ってところかな?)
そんな不謹慎な事を考えるのがやっとの俺。
其れも仕方ない事で、此奴は楽園から数えると千を超える年を過ごしている筈で、其れだけの刻を殆どの自由を奪われ過ごす苦痛は、全く想像出来ないものだった。
「其れで、守人達の事だが」
「はい」
「奴等は最終決戦とでも言えばいいのか?其れには、何処を選んで来ると思う?」
「そうですね。ディシプルの件でリアタフテが至るでしょうし、そうなれば先ずは、結界を形成し支えている柱が姿を表すでしょう」
「柱?え〜と・・・?」
「はい。其の四柱を鍵で破壊する事で、結界が解けて、楽園への道の門が開かれるのです」
「楽園への道・・・、其れは?」
何処に有るのか?
そういう想いを込めた視線を、天蓋の中の救世主へと向けた俺。
「リアタフテ領」
「な・・・⁈」
「其処に有ります・・・」
「そんな筈がっ・・・‼︎」
とんでも無い事を告げて来た救世主に、俺は身を乗り出す様にしながら、声を張り上げそうになったが・・・、其の刹那。
「神木・・・」
「・・・っ⁈」
「アレが楽園へと続く道です」
救世主の告げて来た言葉に、息を呑み絶句し、身体は魔法で固められた様に身動きが出来なくなったのだった。
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