第538話


「・・・」


 流石に救世主の発言に驚き、俺はブラートへと何と声を掛けて良いか分からなくなる。


(ブラートがまさか・・・)


 共に過ごした時間の中での交流や、感じた息遣いからは特殊なところは感じられなかったが・・・。


(ただ、救世主の発言を否定しないところをみると・・・)


 頭の中で思考を巡らせ、驚きが徐々に収まっていくと次に来たのは・・・。


「・・・」


 心が沈んでいく様な感覚と、落ちていく視線。


(詰まりはヒトを造る技術というのは本当に有り、其れによって生まれる者も居るという事か・・・)


 沈んだ心は浮上してくれる事は無く、引き揚げ様と伸ばした自身の腕を逃れ、其処から意固地に動かない様相を示した。


「大丈夫だ、司」

「ブラートさん・・・」


 俺へと歩み寄り添うに立ち、背中にその掌を置き、腹の底に沈んでいた心を導く様に撫でて来たブラート。


「ふっ、大丈夫だ」

「・・・っ」


 其の声には俺への慈しみも、信頼と期待からの厳しさも感じられ・・・。


「はい・・・」

「ふっ、良し」


 俺はただ応えたいという思いから、固まっていた身体から緊張を解く様に力を抜き、然し、落としていた視線は力を込めて救世主へと向けた。


「良いでしょうか?」

「あぁ、頼む」


 俺が頷くのを確認し、続きを始める救世主。


「私の持つ力に付いてですが、一人では意味を成さないものなのです」

「協力者が居るんだよな」

「知っていたのですね?」

「あぁ、まぁな」

「それもラプラス、彼から聞いたのですか?」

「あぁ」

「そうですか、彼は其処迄・・・」

「ん?」


 俺がヒトを創り出す為の詳細な情報をラプラスから得ている。

 そう告げた時に、何処か嬉しそうな声色に変わった救世主に、俺はつい疑問形の呟きを漏らした。


「すいません」

「いや、だから謝る必要は無いが・・・」

「そうでしたね・・・、すぃ・・・」

「・・・」

「すぅ〜・・・、はぁ〜」


 態々深呼吸をして迄、謝罪の言葉を飲み込んだ救世主。


(良し。もうツッコミを入れない事にしよう)


 そんな事を救世主の様に深呼吸迄はしないが、心の中で確認して自分に言い聞かせた俺。


「すいません」

「・・・」


 余りにもな救世主に、少し心配になったが・・・。


「彼が・・・、遠く離れていて、そして言葉も交わした事の無かった彼が、私達の事を意識してくれていた。ただ、其れだけの事が本当に嬉しかったのです」

「なるほどな」

「分かってくれましたか?」

「何となくは・・・、な」

「そうですか」


 救世主に応えた言葉には嘘は無く。

 事実として、俺が救世主の立場なら、細かな考えの違い等はともかくとして、遠く離れてはいるが、ある種の同じ目的に向かって備えている者が、自分の事を意識してくれていたら嬉しいと感じるだろう。

 ただ、俺からの応えに嬉しそうにする救世主には、どう対応して良いか分からなかった。


「貴女と此のザブル・ジャーチの神で創っているんだよな?」

「そうですね。ただ、其れでも完全ではありません」

「じゃあ?」

「其処で出てくるのが、ブラートさんの母マーテルなのです」

「・・・」

「私の創り出すヒトには、人の子と同じ母の存在が必要なのです」


 救世主から告げられた事実。

 其れは静かに受け止められるくらいの、想定していた範囲の答えなのだった。

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