第534話
「・・・」
俺とブラート、そして救世主という残された三人では、そう話が弾む事も無く、静寂の中で時の流れを待っていた。
「あ、あの・・・」
「何か?」
「その、この世界には慣れましたか?」
「まぁ、流石にもう8年は経ちますからね」
「そうですか」
沈黙に耐えれなくなったのか、どうでもいい事を聞いて来た救世主に、俺もこれまたどうでも良さそうに答えた。
「食生活は近いし、魔石による優れた家具も有るし、そう生活は変わらなかったからな」
「そうなのですね。では、元居た世界も此方と同じ様な・・・?」
「世界そのものは違いも多いかなぁ」
「へぇ〜」
そんな深い話はしてないのだが、天蓋の中では身を乗り出す様に影が動いており、救世主が興味深そうにしているのが伝わって来た。
「司の暮らしていた国はどんな国だったんだ?」
「そうですねぇ・・・、文明は発達してますし、政治のシステムはアウレアイッラに近いですかね?」
「ほお?王政では無いんだな?」
「えぇ、皇族は居ますがね」
此方も中々、興味深そうにしているブラート。
ただ、料理や生活器具等重なる部分の多い地球とザブル・ジャーチだったが、根底の魔法や武器の帯同等異なる部分も有るのだった。
「なぁ?」
「はい、何でしょうか?」
「ルグーン・・・。奴は今も教団に所属しているのか?」
「形だけですが・・・。彼を追放すれば、守人では無い彼の支持者も混乱させる事になるのです」
「其処迄、大きな力を?」
「位階こそ高く有りませんが、世界の隅から隅迄、あらゆる所に派遣され、其れを受け入れて精力的に活動していましたから」
「・・・彼奴の事を誰も疑問に思わなかったのか?」
此れは当然の疑問で、魂を操るにしても、いつ迄も歳を取らない、死なないでは、周りの人間から奇異の目を向けられるだろう。
「一つの場所に長く留まらなかった事が、功を奏していたのでしょうね。派遣先で生まれた子、そして孫という風に報告していた様です」
「なるほどな」
「現在のルグーンに付いても、ディシプルで事故死した父の意志を継いで、教団で活動しているという扱いです」
事故死というのが引っ掛かるが、教団としては一国の反乱に教団で一定の地位の人間が関わっているというのは、決して認める訳にはいかないのだろう。
「彼奴の身体は・・・」
「現在のモノに関しては、ムドレーツと言ったでしょうか?彼が私の創ったモノに手を加えた様です」
「・・・っ」
手を加えたというのは、外観を変える・・・、要するに整形の様なものだろうが・・・。
(ラプラスから話を聞いて知っていたとはいえ、自身が創ったと明言されると・・・)
俺は特段構えた風も無い救世主の発言に、独特の緊張感を感じていた。
「本当の事だったんだな?」
「ヒトの事でしょうか?」
「あぁ・・・」
「アポーストルから聞いたのですか?」
「いや、別のところからの情報だ」
「え?では、ヴァダーか?チマーですか?」
俺は答えに近付かない救世主に微妙な違和感を感じたが・・・。
「ラプラスという魔人だ」
「ラプラス・・・。ああ、あの・・・‼︎」
「ん?俺と奴が出会った事は知っていたんじゃないのか?」
「いえ、流石にそんなに些細なところ迄、未来を予知する事は出来ないのです」
「些細ねぇ・・・」
自身と出会う未来をそんな風に表現された事を彼奴が知ったら、何と言うか気になったが、どうやら予知の力も何でも言い当てられるものでは無い様だ。
「噂の魔人の話か?」
「えぇ」
「豪胆なだけで無く、中々の知識人の様だな?」
「どうですかねぇ?見た目には、知性なんて感じないんですがねぇ」
「ふっ、なるほどな」
ブラートには、ラプラスの存在こそ伝えていたが、二人の対面は諸事情により達成されていなかった。
(まぁ、ブラートは何とも思っていないだろうが、アナスタシアがブラートの事を苦手としているし、アナスタシアのそんな様子を見たら、ラプラスが何をして来るか分からないからなぁ・・・)
「懐かしいですね・・・」
ラプラスの名が出た事に、救世主の影は遠くを見ながら宙へと溜息を吐いた。
「あれ?直接の面識は無い筈だよな?」
「はい。私は楽園に居た頃は、創造主の棲家から出た事が無かったので・・・」
「じゃあ?」
「はい。其処からずっと外の世界を眺めていました。彼は良くグロームと喧嘩をしていました」
「・・・へぇ」
「外の世界に出る事の許されていない私には、とても羨ましい事でした」
内容はラプラスから話を聞いていたものとそう違いは無かったが、違和感を感じる部分があった。
「外の世界へ出るのが許されていないってのは?」
「創造主からです。そもそも、私を創造主が生み出したのは、自身の孤独の寂しさを紛らわす為だったのです」
「ルグーンも?」
「はい。殆ど同じ役目です」
そう答えた救世主の声からは、先程迄のラプラスを羨んでいた時の様な楽し気な雰囲気は、完全に失われていたのだった。
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