第492話


 連中のやり取りを見ると、ムドレーツも教団の深い位置と無関係な訳では無い様だが?


(そうなると、ユーラーレも守人側で、その中での揉め事なのか?)


 そんな疑問を抱いた俺だったが・・・。


「油断大敵ですよ?」


 ムドレーツが俺に向けていた様な視線を、ユーラーレに向けた・・・、次の瞬間。


「な⁈」


 剣を持ち構えていたユーラーレ。

 その構えにには、前方、或いは側面にも隙は無い様に見えたが、足下から襲われる事は想定していなかったらしい。


「ぐっ・・・」


 足下から鋭い爪がユーラーレの胸元へと襲い掛かり、刹那の間で其の身を貫いてしまった。


「あああぁぁぁーーー‼︎」


 一瞬の呼吸が詰まる様子から、溜まっていた息を吐き出す様な絶叫を上げたユーラーレ。


「・・・っ」


 それに伴い吐き出された鮮血は、清潔さを保っていたユーラーレの衣服を、一瞬で赤黒い色に染めてしまった。


「・・・」


 その様子にユーラーレの終わりを理解した俺は、先手必勝とばかりにムドレーツへと翔け出す。


「ほお?」

「はぁぁぁ‼︎」


 それを遮る様に伸びて来た魔導巨兵の腕へと・・・。


「邪魔をするな」


 蹴りを入れて腕の方向を変え、その勢いでユーラーレへと向かい翔ける。


「その方はもう助かりませんよ?」

「そうかいっ‼︎」


 当然、そんな事は知っているし、此奴を助ける必要など無い。


「・・・行くぞ?」


 応える筈の無い魔導巨兵の、ユーラーレを貫いた爪に向かい語り掛ける。


「なるほど」


 魔導巨兵は無反応ながら、俺を迎撃する為に爪を抜こうとするが、一度人体を貫いた其れは、直ぐには抜けず手こずっている。


「ひっひっひっ、非道いお方ですねぇ」


 まだ、僅かに息があるのか、声は出せないが苦しみ踠いているユーラーレを見て、ムドレーツは面白そうにしている。


「・・・」


 俺は其れを気にするでも無く、ムドレーツを守る様に自身へと向かって来ていた腕と自身の間に、ユーラーレの身体を楯にする様に位置取った。


「これは・・・」


 ふざけた様な態度を止めて、感嘆する様な声を漏らしたムドレーツ。


(感心して貰っておいて悪いが、防御は問題無いが、決定打を打て無いんだよなぁ)


 衛兵の数は減っている為、王宮の非戦闘員の避難は進めているのだろうが、肝心のオーケアヌスとアクアは未だに避難していなかった。


(自身に戦闘能力が有るからだろうが、俺が避難を促した意味を理解していないらしいな)


 ムドレーツは俺の螺閃に付いては認識しているだろうが、チマーから闇の因子を授かった事は知らない筈。

 そう考えると、二体目が居なければ問題無いし、ムドレーツごと仕留める事も可能なのだ。


(とりあえず・・・)


「喰らえ‼︎」


 朔夜で魔導巨兵の肩口に斬撃を放つ俺だったが・・・。


「無駄かと思いますよ?」

「そうかいっ」


 ムドレーツからの指摘にも、気にせず同じ箇所へと連撃を放ちながら、視線をブラートへと送り、視線で避難を促す。


「・・・」


 ブラートには、俺に策有りと理解出来たらしく、オーケアヌス達を避難させ様としてくれたが・・・。


「手伝うわ、司‼︎」


 アクアはそれを受け入れず、此方へと構えてしまった。


「アクア・・・」


 無駄だと続け様とした俺だったが、アクアは三連無詠唱で魔法陣を描き、其処から水の砲撃が放たれた。


「・・・っ⁈」


 俺が居るのも構わずに、魔導巨兵の巨体へと襲い掛かる砲弾に、俺は上空へと翔け上がる。


「ぐっ‼︎」


 三発の水の砲弾は魔導巨兵の背中へと着弾し、爆音と共に辺りが水飛沫に包まれ、一瞬視界を奪った後、其れが晴れると、奴は地面へと膝を突いていた。


「やったでしょう?」


 俺の事を心配する様子も無く、魔導巨兵の体勢に魔法の効果を確信している様子でいる。


(下級と中級の間の三連無詠唱は流石といって良いが・・・)


 俺はその派手な光景の割には、其の効果に疑問を持っていた。


(勿論、普通の魔物や人間なら、全身の骨を砕かれて終わりだろうが、此奴には・・・)


 朔夜の斬れ味を理解している俺と、オーケアヌス達を守るブラートは一切構えを緩めなかった。


「まぁ・・・」


 それは正解だったらしく・・・。


「そうだろうな」


 魔導巨兵は何でも無い風に立ち上がったのだった。

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