第493話


「何でよ‼︎」

「・・・」


 魔導巨兵へと向かい不満の声を上げるアクアだが、当然の事ながら奴が応える筈は無く、魔導巨兵は新たな標的にアクア達を選ぶのだった。


「ちっ‼︎」


 舌打ちをし魔導巨兵の背へと構える俺。


「狩人達の狂想曲フルバースト‼︎」


 九十九門の魔法陣を詠唱し、其処から生まれ出た闇の狼達が、一斉に魔導巨兵の背へと体当たりをしていく。


「俺が相手だ‼︎」


 再び、膝を突いた魔導巨兵へと構えながら、敵意剥き出しの挑発をする俺。

 然し、魔導巨兵は・・・。


「・・・っ」

「ひっひっひっ、困ったものです」


 アクア達から視線を外す事はせず、その様子を見たムドレーツは呆れた表情をみせていた。


「躾けがなってないんじゃないのか?」

「面目ないですなぁ」

「心にもない事を‼︎」

「ひっひっひっ」


 仕方なく魔導巨兵とアクア達の間へと翔けながら、ムドレーツへと悪態を吐くが、全く気にした様子は無かった。


「退いて下さい、オーケアヌス様‼︎」

「然し・・・」

「私なら大丈夫です」


 現代を生きる者達よりも深い歴史を理解しているオーケアヌスから見ても、魔導巨兵はかなり異質な物らしく、俺だけを残す事に抵抗があるらしい。


「よそ見をしてて、大丈夫ですかねぇ?」


 若干抜けた口調のムドレーツからの指摘。

 視線を向けると、魔導巨兵が此方へと駆け出す様な体勢をみせていた。


(こんな狭い場所でその攻め方を選択するかぁ)


 此処に此奴を出したムドレーツは、王宮の倒壊に巻き込まれない様に、逃走手段を確保しているのだろうが、此奴自身が巻き込まれる事は想定した指示は出せないのだろう。


「・・・」

「司殿?」

「お静かに」


 魔導巨兵への警戒を怠らず、オーケアヌスへと翔け寄った俺は、オーケアヌスだけに聞こえる仲間達だけに聞こえる声で囁いた。


「彼奴の頑丈さは理解して頂けたと思いますが?」

「うむ」

「彼奴の白銀の毛には魔法に対する耐性が有るです」

「何と、そういう事であったか」

「ええー‼︎何よ、それっ‼︎」


 あまり聞かれたく無い話の最中に、大声を上げて、実に派手な反応をみせてくれたアクア。


「・・・」

「ひっひっひっ、大丈夫ですか?」


 あんまりな状況に俺が閉口していると、態とらしく心配そうな口調でムドレーツが語り掛けて来た。


「ちょっと、アンタねぇ・・・」

「アクアッ‼︎」

「な、何?司?」

「少しの間だけ、黙っててくれ」

「えええーーー‼︎」

「良いから‼︎」

「むぅ〜・・・」

「ひっひっひっ」


 ムドレーツへと余計な事を言おうとしたアクアを何とか止めると、その様子にムドレーツが余計な挑発をして来たのだった。


(アクアが乗るだろ‼︎大人しくしてろ‼︎)


 俺はそんな無理な願いを心の中で叫んだのだった。


「私には白銀の毛を破る術が有ります。然し、其の手段には王宮からの皆様の避難が必要です」

「何と、アクアの魔法とてかなりの威力だった筈。それ以上か・・・」

「はい」


 心底驚いた様子のオーケアヌスに、俺はたった二つの音を出す時間も惜しい様に応える。


「ただ、王宮は・・・」

「うむ。人命には代えられぬ」

「ありがとうございます」


 流石は一国の王といった感じのオーケアヌス。

 決断は早く、俺へと後を託してくれた。


「ちょっと待った‼︎」

「・・・っ⁈アクア、静かに」

「ごめんごめん。でも、私にも有るわ」

「何がだ?」

「強力な魔法よ」

「・・・っ」


 アクアの言う強力な魔法とは、多分秘術の事なのだろうが・・・。


(確かに、ディアは秘術で銀狼を狩った訳だが・・・)


「アクア‼︎あれは・・・」

「大丈夫よ、お父様‼︎」

「う・・・」


 何やら微妙な表情で、アクアを諫めようとしたオーケアヌスだったが、押し切ろうとするアクアに何とも言えない表情を浮かべている。


(無理という顔では無いけど、何か問題が有るのか?)


 オーケアヌスの表情が引っ掛かったが・・・。


「ひっひっひっ、行く様ですよ?」

「・・・ちっ」


 考える時間は無いらしい。


「アクア‼︎詠唱を急げ‼︎」

「うふふ、任せなさい‼︎」


 得意げにその双丘を叩いたアクア。


「・・・」

「来い‼︎」


 俺は地を蹴る魔導巨兵へと、アクアの詠唱時間を稼ぐ為、迎撃態勢をとるのだった。

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