第474話


「で?どんな・・・」

「分かったから、ちょっとだけ黙ってろ」

「え〜‼︎」

「いいから‼︎」

「むぅ〜・・・、分かったわよ」

「・・・」


 しつこくアンジュの事を探ろうとするアクアを、かなりキツめの口調で黙らせる。

 ブラートとシエンヌへの説明の必要も有るし、それをアクアにやらせるのは御免だった。


(危険そうな奴だと思っていたが、此処迄とは・・・)


 二人の俺とのやりとりを見て問題無いと判断したのだろうが、自身の置かれている状況を正確に把握して無いのだろう。


(それとも、まだ寝ボケているのかな)


 そんなツッコミを心の中でいれたのだった。


「で?何なんだい、この娘は?」

「えぇ、実は・・・」


 促して来たシエンヌに、俺はヴァダーとの話の一部とアクアの事の説明を開始する。


「ほぉ、なるほどな」

「なるほどなじゃないよ、ブラート。千年前に失われた王国って事は、現在では失われている歴史も持っているって事だよ」

「ああ、だろうな」

「それをこんな危なっかしい小娘がだよ」

「失礼ね?若いと思われるのは有難いけど、私は小娘呼ばわりされる程、子供じゃ無いわよ?」


 シエンヌの述べた不安に、俺が心の中で目一杯首を縦に振り、アクアがその扱いにズレた不満述べると・・・。


「そんな話じゃ無いんだよ‼︎」


 シエンヌから鋭いツッコミがはいる。


「ふっ・・・、良いコンビになれそうだな?」

「お断りだよ‼︎」「お断りするわ‼︎」

「ふっ」


 それを受けてのブラートの発言に、シエンヌとアクアは確かに声も内容も揃っていたのだった。


「だが、そういう事だとあの国王も判断に困りそうだな」

「えぇ。国交を結ぶにしても、先ずは現在の世界の基本を知って貰う必要が有りますしね」

「ああ。人族は特にその辺を重視するからな」

「大丈夫よ」

「アクア・・・」


 俺達の心配を余所に、堂々とした態度をとるアクア。


「私達タブラ・ナウティカは、人族最初の王国にして、あの気位高いエルフ族とも最初に国交を結んだ国なのよ」

「ほお?」


 ブラートを見ながら続けたアクアの言葉は、ブラートにとっては新事実だったのだろう。

 顎に手を当て、真に驚く様な、感嘆の声を漏らしている。


「互いに譲り合えるところは見つけて、譲れないものは闘い続けるわ」

「そう簡単に行けば、良いけどな」

「司、考え過ぎよ?」

「・・・」


 俺にとっては冷静な考えも、アクアにとっては弱気な態度に見えるのだろう。

 アクアは俺の胸を軽く叩きながら、奮い立たせる様に見上げて来る。


(本当、あざといっ‼︎)


 見るなという話だが、白い肌を誇る胸元には、しっかりと黒い縦線の影が刻まれている。


「千年の刻を待ったのだもの、数年数十年なんて大した時間じゃ無いわよ」

「まぁ・・・、な」

「ふっ、説得力は有るな」

「ブラート、変な感心をしてるんじゃ無いよ」


 アクアの言葉に三者三様の反応を見せた俺達だったが、シエンヌは意外に冷静に続ける。


「そもそも、他国が放って置くとは限らないんだよ」

「どうかな?現在のサンクテュエールに逆らえる国はイニティウム砂漠の付近には無いし、とりあえずは問題無いだろう。同じ様にあの国王を出し抜ける指導者もな」

「それこそ、どうかね・・・」


 ブラートの言葉に内心頷いた俺だったが、其れに即座に懸念を示すシエンヌ。


「シエンヌさん?」

「他国もそうだけど、国だけが敵対して来るとも限らないんだよ」

「例えば?」

「ギルドや大商会、規模の大きな海賊なんかも新たな航路は押さえておきたいだろうしね」

「・・・っ」


 シエンヌは幾つかの例を挙げていったが、俺の脳裏に過ぎったのは例の中には無かった一つの集団。


「何だい?心当たりでも有るのかい?」

「は、はぁ・・・」


 目敏く其れに気付いたシエンヌに、俺はどうしたものかと思ったが・・・。


「言ってみな?」

「それは・・・」

「司、良いんじゃ無いのか?」

「ブラートさん」

「頭は粗暴に感じるところも有るだろうが、意外に冷静にものを見ているし、何より頼れる女だぞ?」

「粗暴は余計なんだよ、ブラート‼︎」

「ふっ、そうだったか・・・」


 伝えるべきかどうか迷い、口籠っていた俺だったが、シエンヌとブラートのやりとりに少し緊張が解ける。


(それが、狙いかもしれないが・・・)


 ただ、彼等との付き合いももう長く、信頼出来ない人間で無い事は間違い無い。


「実は、イニティウム砂漠の探索中にヴィエーラ教の連中に遭遇しまして・・・」

「何だって⁈」

「・・・っ⁈シエンヌさん?」


 俺が告げると瞬時に血相を変えてしまったシエンヌ。

 その反応に驚き声を上げてしまった俺。


「ふっ、落ち着いたらどうだ?」

「あ、ああ・・・」


 それを見たブラートは、シエンヌを宥める様に声を掛けると、シエンヌはバツの悪そうな表情を浮かべたのだった。


「・・・」


 そんなやりとりを見た俺は、訳が分からなかったが、若干後悔が胸を過ぎったのだった。

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