第467話


「ほお?若いな?」


 海岸での騒動の後、アクアと兵士達の案内で王宮へと連れて来て貰った俺は、待ち時間無く謁見の間へと通して貰い、国王との対面を果たしていた。

 国王はアクアの親にしては年老いて見え、白く染まった頭髪に、顔には深い皺の刻まれた、老齢の男だった。


「初めまして、国王様。私は、サンクテュエール王国の貴族、司=リアタフテと申します」

「うむ。儂は、此の『タブラ・ナウティカ』の王、オーケアヌス=ファムートゥだ」

「タブラ・ナウティカですか」


 此の国の名なのだろうか、俺が問う様に呟くと・・・。


「そうよ。私と司で隆々と発展させていく国の名よ」

「・・・」

「おほんっ」


 アクアの発言に無言で応えた俺。

 オーケアヌスの咳払いは、その反応に対してではなく、アクアの現在の状況に対するものだろう。


「アクアよ?」

「うふふ、司ぁ」

「・・・」


 オーケアヌスからの呼び掛けには反応せず、俺へと猫撫で声で呼び掛けて来るアクア。


「アクアッ?」

「ねぇ?司ぁ〜?」


 オーケアヌスは若干声を張ってアクアを呼ぶが、アクアの双眸は俺しか捉えていない。


「アクア様?」

「何?どうしたの?疲れたの?それともお腹が空いたの?」

「いえ・・・、国王様がお呼びですよ」


 俺は仕方なく、甲斐甲斐しく俺に世話を焼こうとするアクアに、オーケアヌスを向く様に促すと・・・。


「何?お父様?」

「うむ。その・・・、何だ・・・」

「どうしたの?」

「う〜む・・・」


 言い辛そうにするオーケアヌスだったが、俺は心の中で・・・。


(頼むから、頑張ってくれっ)


 彼を応援しながら、視線を送った。


「その、もう少し離れた方が良いのでは無いか?」

「え?何が?」

「いや、司殿に近付き過ぎというか、そんな風に腕に絡み付くと・・・、その・・・、な?」

「何言ってるの、お父様?これ位、普通よ?ねぇ、司?」

「いえ・・・」


 流石にオーケアヌスと対面している状況で強めのツッコミをいれる訳にもいかず、俺は言葉を濁したが、心の中では、全く全然普通じゃ無いと思っていた。


(それに、オーケアヌスが言い辛そうにしているのは・・・)


「うふふ、司ぁ・・・」

「・・・」

「・・・ぐぬぅ」


 アクアが俺へと体重を預けて来ると、その豊満でハリのある胸に、俺の腕が沈み込み、その底の感触に俺は心を落ち着ける様に、無言を貫くが、自身の娘を思うオーケアヌスは、奥歯を噛み締めてこちらを見ていた。


(まぁ、娘を持つ父親のお約束だよな)


 昔は、そんなドラマを見て嘘臭く感じていたが、実際に凪が生まれて、まだ、そんな歳ではないとはいえ、将来彼氏でも連れて来て、目の前でイチャつかれたら、俺は冷静でいられる自信が無かった。


「ですが、ヴァダーの言っていた事は本当だったのですね」

「勿論じゃない。司は私の王子様よ」

「・・・ファムートゥ家とヴァダーの関係の深さは分かりますが、その予知が間違えているとは考えていないのですか?」

「当然よ」

「・・・国王様は、どうお考えなのでしょうか?」

「うむ。其れそのものを疑ってはおらんな」

「・・・そうですか」


 オーケアヌスの父親としての嫉妬に期待した俺だったが、どうやらそれは虫のいい話だったらしく、オーケアヌスは婚約そのものを拒否する事はしなかった。


「私には妻も子供もいるのですが?」

「大丈夫。私は気にしないわっ」

「・・・」

「その事については申し訳ないと思うが、我等も創造主より与えられた力を、次代へと繋ぐ必要が有る」

「何も相手が私でなくとも、其れは可能なんじゃないですか?」

「水の力を与えられた我等一族にとって、水の神の名を冠するヴァダーの予知は重要なものなのだ」


 オーケアヌスの言葉には説得力を感じられたが、俺の家庭環境を悪くする事は、リアタフテの力の安定を失う事になるとは考えないのだろうか?

 そんな疑問が湧くのも・・・。


「ファムートゥは、境界線の守人と敵対関係にある様ですが?」

「うむ。我等は楽園よりの追放者の多くと協力関係にある」

「・・・追放者達が、ザブル・ジャーチへと侵攻して来たのでは無いのですか?」

「追放者達が?いや、そんな事は無いぞ」


 以前、グランから魔法の話を聞いた時の話では、亜人達が此の世界に侵攻して来たという話だったが・・・。


(まぁ、国すら無い昔って話だったから、何処迄、正確な話か分からないが・・・)


 ただ、此のタブラ・ナウティカが人族最初の国という話も有るし・・・。


「そもそも、創造種達の蛮行が事の始まりなのよ」

「蛮行・・・?」


 俺に絡めていた腕に力を込めて告げて来たアクア。

 俺は静かにその話に耳を傾けるのだった。

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