第461話
〈では、我は行くぞ〉
「ま、待ってくれっ」
〈ん?既に力は与えた筈だが?〉
「そ、そうじゃ無くて、まだ聞きたい事も有るんだっ」
〈ふむ・・・〉
役目を果たしたとばかりに、足早に去ろうとしたヴァダー。
ただ、俺が呼び止めると、渋々ながらも、従ってくれたのだった。
〈で?〉
「あ、あぁ・・・」
急かすか様にして来るヴァダーに、俺は言葉に詰まってしまう。
(何んだと言われても困るが、出来れば色々と知りたい事も有る)
「そういえば、俺以外にもイニティウム砂漠に来ていた連中が居た筈だが?」
〈ああ、あの者達か〉
「彼奴等はどうしたんだ?」
〈暫くの間砂漠を彷徨わせ、数度出口迄送ってやったら帰って行ったぞ〉
「そんな事も出来るのか?」
〈此の大陸全体が我の魔力の支配下に有るからな〉
流石、神龍の中でもチマーを別にすれば、随一の魔力の持つといわれるヴァダー。
一つの大陸全体を魔力の影響下におけるとは・・・。
「彼奴等が此処に来たのって、初めてなのか?」
〈うむ。そもそも、稀に此処に来る者は居るが、其の殆どが明確な目的を持たず訪れるからな〉
「彼奴等は?」
〈ファムートゥの事を探りに来たのだろう〉
「な⁈じゃあ、彼奴等はルグーンの・・・」
ヴァダーの告げて来た内容に、奴等がヴィエーラ教の聖堂騎士団という事も考え、ルグーンとの関係を疑ったが・・・。
〈ほお?これはまた、懐かしい名だな〉
「・・・そうか、お前も奴を知っているんだな」
〈うむ。ただ、あの者達が其れの一味と想定するのは、早計であろう〉
「何故、そう思う?」
〈ヴィエーラ教といったか、彼の宗教も一枚岩では無いし、何より境界線の守人達もな〉
「・・・ほぉ?」
ヴィエーラ教が一枚岩では無いという話は聞いた事が有ったが、守人達もそうとは・・・。
〈守人達の中にも既に、元来の役目を捨て去った者も居るしな〉
「役目を捨て去った?」
〈うむ。それ程、悠久の刻に熾烈な闘いを刻み続けるのは過酷なものなのだ〉
「じゃあ、其奴等は、今どうしてるんだ?」
〈群れから離れれば、終わりを迎えるしか無い。それこそ、ルグーンの力が無ければな〉
「なるほどな・・・」
魂を操作する力ならば、転生せずとも刻を渡る事が可能だろう。
「だけど、ルグーンの一味じゃ無いなら、何故、ファムートゥの事を探りに来たんだ?」
〈あの者達の主人の指示であろう〉
「主人ってのを、お前は知っているのか?」
〈ああ、無論だ〉
「其れは?」
〈明日には導きあうだろう〉
「・・・答える気は?」
〈其れを伝えても、お主の中にその概念が存在しなければ、理解する事は出来ぬだろう〉
「小難しい言い方で、誤魔化そうとして無いか?」
〈ふむ?此れは異な事を言う〉
「・・・」
答える気は無いのだろうが、出会う事は確定の様な口調のヴァダー。
(その出会いの為に、最低限の準備をしておきたいのだが・・・)
〈安心しても良い。其の者はお主に害意は無い〉
「何故、言い切れる?」
〈お主はルグーンと争っているし、其の者もルグーンの存在を良く思っていない〉
「敵の敵は味方なんて分からないだろ?」
〈其の者はそんなに狭量な存在では無い。お主がルグーンと闘うなら、その邪魔はせぬだろう〉
「・・・どうかな?」
〈それに、其の刻が来れば分かるが、お主も其の者を敵とは認識出来ぬだろう〉
「・・・」
それこそどうかな?
ヴァダーの確信に満ちた声に、俺はそうツッコミを入れたかったが、他にも聞きたい事が有る為、それ以上はツッコまなかった。
「ヴェーチルとチマーの正確な居場所は分かるか?」
〈ふむ、ヴェーチルに関しては現状は流石に分からぬ〉
「現状は?」
〈うむ。境界を漂う奴を発見する事は出来ぬが、その身を休める為に結界を張った状態なら感知する事は可能だ〉
「・・・」
それなら、ラプラスにも出来るのだが・・・。
そんな、俺の不満が伝わったのか、ヴァダーは・・・。
〈我は、此の世界の何処に居ても、其の状態の奴なら感知出来る〉
「例えば、ラプラスという魔人には?」
〈不可能だろう。そもそも、其れを行える存在は限られている。例えば、始祖神龍と呼ばれるチマーにも其れは叶わぬ〉
己の力を誇示する様に告げて来た。
「じゃあ、チマーの居場所は?」
〈正確なものは分からぬ〉
「・・・」
〈感知の力と、阻害の力は別物なのだ〉
「まぁ、そうだろうな」
俺の示す訝しげな様子に、応えて来たヴァダーに、一応の納得を示す。
(そもそも、其の種の力の無い俺には、其れに正しい判断を下す事は難しいからな)
〈ただ、ジェールトヴァ大陸は此処から遥か東に存在している〉
「其れは知っているんだな?」
〈無論だ。そもそも、現在の其れが記されていない地図の方が、我には異常なのだ〉
「現在?じゃあ、過去には?」
〈無論、存在していた。其れを、起源種達が葬り去ったのだ〉
「え・・・?」
葬り去った。
そう告げて来たヴァダーの声の底には、冷徹な怒気が込められていたのだった。
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