第459話


「此処は・・・」


 俺が突如として運ばれた先は暗闇の中で、一瞬視界が奪われてしまったが、徐々に其れが戻って来ると・・・。


「洞窟の様だな・・・」


 生き物の気配は無いから、ダンジョンでは無さそうだが・・・。


「・・・っ⁈」


 頰に冷たいものが触れ、驚き指先で確かめると、天井からの水滴。

 恐る恐る、踏み出した足下には、不安を感じさせる滑りを感じた。


(かなり湿気が多いな・・・)


 直前迄、高温と乾燥の二重苦を受けていた俺には、其れ程不快な空間では無いが・・・。


「何の為に俺を運んで来たんだっ?」


 何処とは特定せず、軽く上を見て顎を上げ、空間全体に響く様に呼び掛ける。


〈何の為とは異な事を・・・〉

「何・・・?」


 応える様に聞こえて来た声は、オアシスで聞いたものと同じで、落ち着いた状況で聞くと、老若男女その全てに思える声だった。


〈我との出会いを求める者に、邂逅を与えたのだ〉

「与えられた時点で、邂逅では無いと思うがな」

〈ふふ、なるほど。其れもそうだ〉

「・・・お前がヴァダーか?」

〈懐かしいな・・・〉

「え?」

〈名を呼ばれる事だ。もう、千の年は重ねただろう〉

「せ、千年も誰にも会わなかったのか⁈」

〈うむ・・・〉


 俺は声の主がヴァダーと認めた事よりも、其の状況に驚いた。


「何か理由が・・・?」

〈そうだな、無くは無い。然し、重要なの今日迄の歳月では無く、今日を迎えた事実だ〉

「は・・・?何を言ってるんだ?」

〈我は此の日を待ち続けていた・・・〉

「・・・」


 深く溶け込んで来る様な口調で告げて来たヴァダーに、静寂で続きを促す。


〈再び、楽園へと至る可能性が揃う今日。お主等には時代とでも言った方が良いか〉

「揃う?時代?」

〈そうだ。全ての宿命を背負いし者達が、一つの時代に揃う。悠久の時を刻む我にとっては、お主等にとっての時代は、ただの今日に過ぎぬがな〉

「宿命を背負いうって・・・?」

〈創造主より楽園への鍵を与えられた者達だ〉

「創造主よりって、もしかして・・・、リアタフテの・・・⁈」

〈ふむ。懐かしい名だ〉

「・・・っ⁈」


 ヴァダーから告げられた予期していなかった言葉に、俺は身を強張らせる。


〈我の予知では、既にリアタフテ、ザックシール、ノイスデーテは其処に至っている筈だが・・・〉

「な、予知っ⁈」

〈うむ、驚く事も有るまい〉

「お、おいおい・・・」


 どう聞いても、驚きで応えるしかない内容を告げて来たヴァダーは、然し本当に何でも無いという口調だった。


(ただ・・・)


 驚きも有るが、ツッコミを忘れる訳にはいかない。


「なぁ、ヴァダー?」

〈うむ、何かな?〉

「楽園への鍵に至るっていうのは、創造主から与えられた魔法を会得するって事だよな?」

〈ああ、無論だ〉

「・・・」

〈どうした?〉

「あぁ、実はな・・・。ノイスデーテと一応ザックシールも其処に至っているんだが、リアタフテはまだ・・・」

〈ほお、そうだったか〉


 自身の予知が外れているのに、慌てる事も、落ち込む事も無いヴァダー。


「サラッと流すなぁ」

〈うむ、千年単位の予知だ。其れに、お主が此処に来たという事は、既にリアタフテに至る者は生まれているのだろう〉

「・・・」

〈どうした?〉

「俺を知っているのか?」

〈当然であろう〉

「・・・」

〈ふむ、疑っているのか〉

「其れは・・・」


 疑うなという方が無理な話だが、俺の存在とリアタフテが生まれると表現するという事は、大きな間違いも無い。


〈お主の魂が、本当は四十を数える者だと言えば、信じられるかな〉

「・・・っ⁈お前っ‼︎」

〈心配するな。其れを誰かに漏らそうとは思っておらん〉

「・・・っ」


 此奴が其れを誰かに漏らしたところで、其れを信用する者が居るかは分からないが、俺の正体を知っているという事は、予知はともかくとして、特別な力を持っている事は間違い無い。


〈数奇な宿命を辿る者よ。お主が此処に訪れた、其れで間違い無くもう一つの鍵が目覚めるのだ〉

「目覚める?」

〈そうだ。水の宿命を背負いし一族、『ファムートゥ』家の者がな〉

「水の宿命・・・、ファムートゥ家?」


 俺がヴァダーに詳細を問おうとした・・・、刹那。


〈行くぞ・・・〉

「え⁈」

〈ハァァァーーーァァァ‼︎〉

「・・・っっっ⁈」


 気合いを入れる様なヴァダーの咆哮。

 其れに呼応するかの様に激しく振動し始めた空間に、俺は地面にしごみつく様にして、必死に耐えるのだった。

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