第450話


「どうでした・・・、の?」

「あぁ、美味かったと思うよ」

「そ、そうですのっ」


 皆で食事を済ませると、ミニョンが心配そうに味の確認をして来たので、俺は何でもない風に応えた。


「え?そうかな?」

「刃・・・」

「こ、子供には分からない味の様ですわねっ」

「ええー」


 刃からの子供らしい純粋な感想に少しムッとしたミニョン。


(まぁ、刃にとってミニョンは、ニートの親戚のおばさんが、家に住み着いてる位の感覚でしかないだろうからなぁ)


 それも有り、あまり気を遣わずに発言出来るのだろう。


「いや、味付けが薄いよ」

「・・・っ」


 然し、シエンヌからの冷徹な一刀両断に、ミニョンは言葉を詰まらせ、俺へと心配そうな視線を送って来た。


「ま、まぁ、慣れだよ、料理は・・・」

「うう・・・」


 俺からのフォローも、最初のやり取りがあり、ミニョンは素直に受け取る事は出来ない様子だった。



「そういえば、イニティウム砂漠への渡航の件はどうなったのかな?」

「えぇ、陛下は許可をくれそうなのですが、引退に向けての準備もあるので、もう少し時間が掛かりそうです」

「なるほど。いよいよ、サンクテュエール王も引退か・・・」

「えぇ。まぁ、数年は掛かるそうですけど・・・」


 アッテンテーターとの戦争は、初戦が最大の激戦となり、それ以降は、小規模な小競り合いを繰り返しながら、約一年前に、アッテンテーター側が不平等条約の締結を受け入れ、一応国としては存続しながらも、ほぼサンクテュエールの属国扱いとなって終戦となったのだった。

 その結果を受け、国王へとイニティウム砂漠への渡航の許可を貰いに行った俺は、其処で国王から引退の話を聞いたのだった。


(次期国王は現王太子のモナルク。彼については印象を持てる程、会った事は無いのだが・・・)


 ただ、伝わって来る話では、優秀では有るが凡庸な人物という事だが・・・。


(矛盾も感じるが、何でもそれなりに出来るが、一国の王としては物足りないって事だろう)


 現国王は、何だかんだ言ってカリスマ性のある人だし、少なくとも王位を譲る前に、此の大陸でサンクテュエールに刃向かう存在は、全て片付ける事に成功したのだった。


(あっ、全てでは無いか・・・)


 俺の頭を過ぎったのは、此の大陸にあるヴィエーラ教の総本山の存在だった。

 一応、未だにサンクテュエール国内には、ヴィエーラ教の教会が無数にあるのだが、イニティウム砂漠への渡航の件でも、ヴィエーラ教の管轄海域の渡航許可は得られず、国王からは無視して構わないと許しが出ていた。


(まぁ、ヴィエーラ教側に不満があっても、此方側を従わせる力は無いだろうけど・・・)


「そういえば、リヴァル様は?」

「うむ。陛下も、引退をしたいのだろうがな」

「やはり、後継者が?」

「いや、実は居るには居るのだ」

「え?」


 ディシプル王であるリヴァルは、後継者であった息子がクーデターを起こした事で、監獄で一生を終える事が確定している。


「元殿下のご子息なのだ」

「あ、あぁ・・・」


 俺はディシプルの王太子に会った事は無かったが、リヴァルの年齢を考えると、王太子に子供が居ても不思議ではなかった。


「では、その方が?」

「うむ・・・、確定では無いのだがな。ただ、その他の候補者の方々は、かなりの遠縁ばかりで、貴族達からの不満も多いのだ」

「なるほど」

「まあ、ご子息も父親を意識出来ない程に幼かったからな」

「お幾つなのですか?」

「今年で7歳になる」

「そうですかぁ」


 それだと、確かに監獄に居る父親の事は、殆ど覚えてはいないだろう。


「じゃあ、リヴァル様の養子に?」

「うむ。既に手続きは進めている」

「フォール将軍も忙しくなりますね」

「ん?いや、正直内政は専門外だし、現在の国に私の出来る事は限られているさ」


 そう言って、酒に口をつけるフォール。

 その様子は寂しそうにも、或いは安堵を感じさせる様にも見えた。


(まぁ、国力の差を考えると、サンクテュエールと再び争うなんて事は出来ないだろうし、そうなると軍人の相手は海賊と山賊位しか居ないからなぁ)


 流石にその程度の相手では、フォールも楽しめないだろう。


「良いんじゃないかい、ゆっくり休めば?」

「シエンヌ・・・。うむ・・・」


 シエンヌに応えながらも、納得はしていない風のフォール。


「もし良ければ、私の仕事を手伝うかい?」

「ひと段落ついたら、それも良いかもな」

「ええー‼︎仕事があるのなら、私に紹介して欲しいですわっ」

「あん?」


 フォールとシエンヌのやり取りに、不満の声を上げたミニョン。

 それを受けて、最初面倒くさそうにしたシエンヌだったが・・・。


「シエンヌ〜・・・」

「はぁ〜・・・、仕方ない娘だねえ」


 瞳を潤ませながら甘えた声を出すミニョンに、なんだかんだで面倒見の良いシエンヌは、溜息混じりで応えてやったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る