第449話


「ただいまー‼︎」

「おっ、戻ったか、刃?」

「あっ、父さんっ」

「おっ、おお・・・」


 子供らしく元気に帰宅して来た刃。

 出迎えた俺の姿を確認すると、胸の中へと跳び込んで来たのだった。


「へっへっへっ、くすぐったいよ、父さん」

「ん?そうか?」


 昼の事もあり、その頭を目一杯撫でていた俺に、刃は気恥ずかしそうに、首を振って抵抗して来た。


「刃・・・」

「あっ、母さん・・・」

「・・・」

「うっ・・・」


 静かながら、内に秘めた怒りの伝わって来るアンジュの登場に、刃は一瞬で身体を強張らせた。


「何か言う事が、あるでしょう?」

「ごめんなさい」

「ブラートには・・・」


 素直に謝って来た刃に、アンジュはブラートの事を気にしたが・・・。


「ふっ、もう明日の約束はしたぞ?」

「ブラート・・・」

「な?刃?」

「うんっ」

「・・・うっ」


 刃と一瞬に隠れ家の中に入って来ていたブラート。

 ブラートは刃への助け船を出し、注意をしたかったアンジュは、言葉に詰まってしまう。


(案外、これを狙ってくれたのかもな・・・)


 俺はブラートが常日頃から落ち着いた態度で、一歩引いたところから、俺達一家の事を見守ってくれているのを感じていた。


「そうだわっ、司っ」

「お、おぅ・・・」

「・・・」

「うっ・・・」


 最終兵器とばかりに俺へと視線を送って来るアンジュ。


(正直、真面目に考えていなかったからなぁ)


 刃の今回の件は単純なサボりでは無いし、嫌な予感がしたのも嘘では無いという確信が俺にはあった。


「・・・っ」


 アンジュに叱られそうになった時より、身体を強張らせる刃。


「・・・」

「・・・」

「・・・」


 俺を見て来るアンジュと、俺の膝の上の刃、そして俺の3人の無言の時が流れ、俺の選んだ答えは・・・。


「・・・っ、父さん?」

「今度からは、ちゃんと不安の内容を相談するんだぞ?」


 現実的に刃1人では、乗り越えられない危険に飛び込む事だけは、避けるというものだった。


「・・・う、うんっ」

「司・・・」

「まぁ、今回は危険も無かったみたいだし・・・、な?」

「もう・・・、仕方ないわね」


 俺の選んだ答えに刃はハッキリと応え、アンジュは若干の不満は示したが・・・。


「ごめん、母さん」

「でも、父さんの言った事・・・、約束よ、刃?」

「うんっ」


 刃が再度素直に謝って来た事で、一応の納得はしたのだった。


「さぁ、終わったのならご飯にしますわよ」


 俺達一家のやり取りが終わった事を確認し、ミニョンは夕飯の大皿を持って来た。


「え?今日もおばさんが作ったの・・・」


 そんなミニョンに、少しビビった様子をみせる刃。


「刃君?何度も言ってますけど、私はおばさんではありませんわよ?」

「ええ〜、でも、父さんと母さんと同級生だし・・・」

「うっ・・・」


 刃からの的確なツッコミに、ミニョンは苦々しい表情を浮かべる。


「そういえば、今日もってどういう事だ、刃?」

「うん、父さん。あのね、この間・・・」

「良いんですわっ、刃君っ‼︎」

「え?おばさん、でも・・・」

「あの日はあの日。今日は今日ですわっ‼︎」


 刃とミニョンのやり取りを見るに、どうやら俺の居ない時にミニョンが料理を作り、その出来栄えが散々なものだった様だが・・・。


「これは・・・、豚肉とキャベツのミルフィーユみたいだな?」

「そうですわっ」

「父さん、何それ?」

「ん?あぁ・・・」


 刃は初めて見る料理だったらしく、俺は説明をしてやった。


「そっか〜」

「私も初めて見るわね」

「そうなのか?」

「ええ。司は何処で・・・?」

「あぁ、母親がよく作ってくれたんだ」

「え?司さんのお母様の得意料理でしたのっ?」

「ん?まぁ、得意って訳でも無いんだが・・・」


 そうポテトサラダを運んで来たミニョンに告げた俺。


「ほほほ、何やら賑やかな雰囲気じゃの?」

「あっ、ひい爺ちゃんだ〜」

「おお、刃よ」


 玄関から聞こえて来たエヴェックの声に、膝から跳び降り駆けていった刃。


「フォール先生も一緒だったんだ」

「うむ、久し振りだな」


 そして、玄関からはフォールの名と、声も聞こえて来たのだった。

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