第427話


「む・・・」


 グネーフは目一杯、腕を引き絞り、其の岩石の様な拳を固めて・・・。


「あの時のガキ・・・、かっ」


 其れを振り抜き、大地へと抉る様に撃ちつけた。


「ふっ・・・、が‼︎」


 轟音と共に大地は粉々に剥がれ、無数の岩石の塊が俺とケンイチへと襲い掛かる。


「・・・っ⁈」

「く・・・、そがぁ‼︎」


 俺は上空へと翔け上がり、ケンイチは蛇行運転で其れ等を躱していった。


(さっきの爆音と振動は此奴か・・・)


 俺は耳鳴りの様に残る残響に、開戦の合図になった爆音の発信源を知った。


「ふん・・・」


 鼻を鳴らし、其れを見下ろして来るグネーフ。


「ケンイチ様‼︎」

「五月蝿え‼︎」

「・・・っ」


 歪に抉れた大地に、グネーフの圧倒的なパワーを見た俺は、一対一の無意味さをケンイチに説こうしたが、其れは一喝の下に遮られた。


「言った筈だ・・・」

「・・・」

「お前は自分のやるべき事をやれっ」

「・・・はい」


 前方のグネーフを見据え、俺へは背中で語り掛けて来るケンイチ。

 俺は其の覚悟に、それ以上は何も言えなかった。


(だが、グネーフが居るという事は、ナヴァルーニイやルグーン、九尾軍団等が居ても不思議は無い筈だが・・・?)


 現在のところ、此の戦場にグネーフ以外の守人側は見当たらなかった。


「指揮官が孤立しているぞ‼︎」

「撃て‼︎撃て‼︎撃てぇぇぇ‼︎」

「・・・ちっ」


 ケンイチのあまりにもな状況に、アッテンテーター軍の兵士達は、ケンイチへと距離を縮めていく。


「剣ゥゥゥ‼︎」


 進軍する一団へと漆黒の剣の雨を降らす俺に・・・。


「ぐっ・・・」

「くっ、大砲隊・・・、前へ‼︎」

「・・・」


 一団の隊長らしき軍人の指示で、大砲部隊の兵士達は、鋼鉄の盾で守られた砲身を俺へと向けて来た。


(雨対策という訳か・・・)


 俺は此の混戦では使用する事の出来ない魔法への対策に、少し可哀想な気持ちになった。


(ただ・・・、あれは使えるな)


 ふと、頭を過った策・・・。


「照準・・・、良ぉぉぉしぃぃぃ‼︎」

「・・・」


 無数の砲身が一斉に俺を捉えたのを感じ、俺は身構える・・・。


(大砲には複数で対応しているな・・・)


 俺は一門の大砲に5人付いている様子に、縫での強制停止は諦める。


(なら・・・)


「撃っっってぇぇぇーーー‼︎」

「はぁーーー‼︎」


 俺はアッテンテーター兵士達から打ち上がる雄叫びを合図に、上空の太陽へ向かい翔け上がる。


「・・・ぐっ‼︎」


 砲弾の発射に伴う爆音と振動を背中に感じながら、後ろを振り返る事だけはせずに翔け上がる速度を上げる。


「・・・うっ‼︎」


 瞳に飛び込んで来た陽の光、俺は右腕で其れを遮る。


「・・・良し」


 地上へと視線を落とし、砲弾が無くなっているのを確認した俺は・・・。


「行く・・・、ぞぉぉぉ‼︎」


 陽の光を背にし、兵士達の視界を一瞬遮り、其の間で・・・。


「・・・な⁈」

「・・・」

「お、墜と・・・、ぐぅぅぅ‼︎」


 一気に地上へと急降下し、大砲の周囲の兵士達を朔夜で斬り捨てる。


(此れを・・・)


 倒れていく兵士達を横目に、俺は砲身を守る盾を奪い取り・・・。


「な、何を・・・?」

「構わん、殺れぇぇぇ‼︎」

「・・・」


 俺へと襲い掛かる兵士の影へと飛び込む。


(もう一つ位・・・)


 俺は奪い取った盾へと、魔法を詠唱しながら、別の大砲へと泳いでいく。


(此処に・・・)


「するかぁぁぁ‼︎」

「な・・・⁈」

「っ⁈」

「はぁぁぁ‼︎」


 俺は付けた狙いへと飛び出し、其処を守る兵士達を秒殺で斬り捨て、再び盾を奪い、魔法を詠唱しながら、空へと飛び発った。


「ちっ、早く狙え‼︎」

「必要無い‼︎とにかく上空へと放てぇぇぇ‼︎」


 そんな俺の背後に狙いを定め様とした兵士に、隊長らしき軍人の指示が飛ぶ。


「はっ‼︎」

「・・・」


 兵士の反応に、俺は自身の想像が間違っていなかった事に理解したが、そんな事はどうでも良く・・・。


「やらせる訳が無いだろう‼︎」


 魔法を詠唱していた盾を、地上へと投げ捨て・・・。


「発動しろ・・・。執行人による紅蓮の裁きゥゥゥーーー‼︎」


 俺の咆哮に反応し、盾へと詠唱しておいた魔法陣が発動し・・・。


「・・・っ⁈」


 戦場に響き渡る無数の雄叫びを、全て飲み込む轟音。


「・・・ぐぅぅぅ‼︎」


 地上へと降り注いだ真紅の爆炎は、上空にいた俺へと皮膚が痺れる様な熱風を運んで来た。


「・・・っ⁈」


 そんな熱風を浴びながらも、反動で打ち上がった鋼鉄の盾を、俺は寸前で躱し・・・。


「・・・」


 墜ちていく二枚の鋼鉄の盾が、地上へと辿り着くと、其処には・・・。


「殺った・・・、か」


 無数の皮膚の爛れた者や、関節が有り得ない方向に曲がった者達が、炎の海の中、倒れていたのだった。

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