第414話
「・・・」
「・・・」
互いに無言のまま、静寂の中、アッテンテーター王都への時を過ごした俺とアルヒミー。
(とりあえず、怪しい動きは無い様だし、会談迄は普通に行われるのか?)
会談にどの程度の身分の者が来るかは分からないが、余程、自国の防衛力に自信が有るのか?
(まぁ、流石に暗殺に来た訳では無いし、荒事になったとしても逃走を第一に考えてるけど・・・)
交渉については俺に任せると国王は言っていたが、其処で荒事が起こり、下手に相手の要人を殺す事にでもなれば、アッテンテーター側からの非難と、サンクテュエール国内の貴族からも非難が飛んで来る事になるだろう。
(転移の護符はバドーの馬車に仕掛けているが、最悪の場合は別の地点の物を使わないといけない)
会談の開始どころか、場に到着する前なのに、最悪の想定しか出来ない今回の任務。
重くどんよりとした空気に支配されたキャビンの中。
(然も、此のキャビン窓が無いから、外部の情報が全く入って来ないんだよなぁ・・・)
フェルトから聞いている、アッテンテーター国内の、有事用の兵器の埋め込まれた地点や補給庫の場所、あとはアッテンテーター特有の魔導兵器を出来れば確認したいのだが・・・。
当然の事ながら、そんな隙を与える程、相手も馬鹿では無いのだが・・・。
「・・・」
「・・・」
(それにしても、無口な男だなぁ・・・)
アッテンテーターの内情などは、割に説明してくれたフェルトだったが、家族の話だけは殆どしてくれなかった。
(教えてくれたのは、ザックシール家がアッテンテーター貴族の頂点に立つ事と、其れが人工魔石の発明によるものだという事と、フェルトが国を出る迄の当主がフェルトの父だった事)
家族構成については聞き出せなかった為、アルヒミーが兄弟か従兄弟かは分からないが、ヴィエーラ教の手前、それなりの身分の人間だと思うし、次期当主なのかもしれない。
(まぁ、其れを問い掛ければ、フェルトとの繋がりを宣言する事になるから、当然出来ないのだが・・・)
「そろそろだ」
「え?」
「王都へ到着と同時に、会談は始まる」
「え〜と、会談には・・・」
「無駄な質問はするな」
「・・・」
「私は意味の無い事に時間は使わない。貴様は会談の場でサンクテュエール王の意見を伝えれば良いし、其の結果を受け陛下及びに、ヴィエーラ教の坊主が判断を下す」
「・・・そうですか」
意味の無い事と言いつつ、会談の出席者については述べたアルヒミー。
(まぁ、別の場所に居て、判断だけするのかもしれないがな)
ただ、話が早いのは悪い事ばかりじゃ無い。
既に、クズネーツで完成した魔導戦艦は此方に向け出航しているし、王都ではケンイチ率いるサンクテュエール軍も着々と開戦に向け準備を進めている。
(相手も其のつもりだろうが、緊張状態が長々と続くのは、軍人達にとってマイナスになる)
海戦では圧倒的優位に立てるだろうし、港街を押さえて仕舞えば、フェデラシオン連合国との話も付いている為、アッテンテーターの補給経路を断つ事が出来る。
その為、此の闘いは王都を落とす必要が無い点で、此方側が圧倒的に優位に立っているのだった。
「着いたぞ」
「はい」
アルヒミーに先導されキャビンを降りた先。
「・・・っ、此処は⁈」
其処は四方を高い壁に囲まれた空間で、床は頑丈そうな鉄製の物だった。
(門が有るがいつの間に・・・)
俺達が来た方角だと思われる先には、此れも堅牢そうな鉄製の門が有ったが、キャビンの中では馬車が停止した様子は感じられなかった。
(全て予定時間割りを作り、準備をしていたのか?)
余程、俺に国内の情報を与えたくないのか、其処迄やるとは・・・。
「行くぞ、さっさとしろ」
「・・・っ」
「・・・」
「すいません、此処は?」
「言ったろう?私は意味の無い事に時間は使わない」
「・・・」
「来ぬなら勝手にしろ」
俺の質問に答える気は無いらしく、さっさと歩いていき、進行方向に有った扉を開いたアルヒミー。
(ちっ、勝手な事を・・・)
俺は心の中で悪態は吐いたが、足は動かしアルヒミーの背中を追う。
「・・・」
「・・・」
キャビンの中と同じ様に、無言のままの俺達。
(まぁ、何を聞いても答え無いだから、意味は無いがな)
ただ、いつの間にか同行していた5人の軍人達は、何処かに消えている。
「・・・」
耳と目に魔力を流してみるが、情報を入手する事は出来無い。
アルヒミーの先導する通路は狭く、何よりなんの装飾もされておらず無個性なもので、灯りも最低限のものだった。
(ただ、人の気配はするんだよなぁ・・・)
壁に何かしらの細工がしてあるのか、それともフェルトが国を出た後にカメラ的な魔導具でも開発したのか・・・。
(まぁ、連中も此処で俺を襲う様な、悪手は打たないだろう)
そうも思いつつも、右の掌だけはアイテムポーチに添えて、俺は通路を歩いていった。
「・・・」
「・・・っ、何か?」
無言で急に立ち止まったアルヒミーに、一瞬で緊張感が増した俺。
「・・・」
ただ、アルヒミーは背を向けたまま、その場に止まり続け、俺も動きが取れないでいると・・・。
「おおっ⁈」
「・・・」
急に機械音が響き、俺とアルヒミーの立っていた床が迫り上がっていく。
「此れは・・・」
「ジッとしていろ」
「・・・」
「落ちられれば、拾うのが面倒だ」
「はい・・・」
動き出す前に教えて欲しかったが、どうやらエレベーターの様な物らしい。
(此れはどうだろう?俺達の重量に反応したのか?誰かが見ていて動かしたのか?)
俺は目に魔力を流し続けていたので、アルヒミーが魔法を使った可能性は無いだろう。
「・・・ん?」
迫り上がる床に乗り、1分程度だろう。
床の進行方向の天井が開き、光が見えて来て・・・。
「・・・っ⁈」
床が辿り着いたの先には、俺とアルヒミーを取り囲む様に、国境で見たのと同じ軍服を着用した軍人達が立っていた。
「開けろ」
「ははぁっ」
アルヒミーの指示に、進行方向を開けた軍人達。
「お待たせ致しました、陛下」
アルヒミーは進みでながら、前方に向かい声を掛ける。
「うむ、ご苦労だったなアルヒミーよ」
「・・・っ」
陛下、そうアルヒミーが呼んだという事は、此の男がアッテンテーターの皇帝なのだろう。
「貴様がサンクテュエールの・・・」
俺の視線の先、其処には玉座に座る老齢の男が居たのだった。
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