第415話


(貴様ねぇ・・・)


 高貴な身分では有るのだろうが、他国の一応貴族に対する態度だろうか・・・。


(アルヒミーに対する労いの言葉から、全ての人間に対する態度では無いだろうし・・・)


 其れが、余計に問題に感じられるが、観察を進める事にする。

 歳は70前後だろうか?

 身体は恰幅が良いというよりは、肥満体の太鼓腹を抱えながら、玉座の深くに沈み込む様に座っている。


(視線は合わないなぁ・・・)


 髪も眉毛も白く染まっているが、歳と肥満から上瞼の肉は垂れており、其の双眸の色は確認出来なかった。


(魔力量は少ないし、流れ自体も良いといえるものではない)


 皇帝には必要無い能力なのだろうが、実戦に優れたタイプでは無いな。


(周囲は・・・)


 前方だけは開き、俺の側面に軍人達が立っており、背後にも気配を感じる。

 壁際に控えるのは、軍人達も居るが、貴族や役人と思われる服装の者達も居る。


(アルヒミーは特殊なタイプなんだなぁ・・・)


 俺は壁際に控える貴族達の服装を見て、サンクテュエールの連中と変わらない装飾の凝った服装に、アルヒミーの様な地味な服装が異質な事を理解した。


(そして、彼処に並んでいるのが・・・)


 控えている連中の中でも、異質なマントの様な祭服に身を包んだ一団。

 其の祭服に刻まれた紋章には見覚えがあり、ヴィエーラ教のものだった。


(一応、ヴィエーラ教の呼び出しというのは嘘では無いのか・・・?)


 正直なところ、其れすらも信じていなかった為、俺は少し意外な気持ちになった。


「進み出よ」

「・・・はっ」


 思考を巡らせ、観察を進める中での、突然の皇帝からの呼び掛けに、俺は間の抜けた態度にならない様に反応する。


「はじめまして、司=リアタフテでございます。召喚の命に応え、参上致しました」

「・・・」

「・・・」


 値踏みする様に俺を観察してくる皇帝。


「『リネアール』よ」

「はっ」


 皇帝に呼ばれたリネアールという男は、軍人の様で、皇帝へと歩み寄ろうとしたが・・・。


「必要無い」

「へ、陛下?」

「そのままで良い」

「は、はっ」


 其奴を止めた皇帝は、続けて・・・。


「申せ」

「はっ。上限突破の方で測定不能となりました」

「ふんっ、生意気な・・・」

「・・・」


(あの手に持っている物は・・・、魔力測定器的な物か?)


 リネアールの右手には、虫眼鏡大の装置が握られており、其れを見て皇帝に答えた為、内容から俺の魔力を調べたとみられる。


「サンクテュエールの坊主の元には、忌々しいケンイチも居るのに、此の小僧迄・・・」

「・・・」


 憎々しそうに眉間の皺を深くした事で、瞼の肉が動き、青い瞳が覗いていた。

 隣国同士だし、皇帝は国王の事もケンイチの事も知っているのだろう。


(年齢的には確かに坊主なのだろうが、俺の前で言うかね)


 ケンイチの事を忌々しいと評するのは、休戦前に彼が、かなりの戦果を挙げたのであろう事が、想像出来た。


「『ビショフ』よ」

「はっ、陛下」

「始めよ」

「御意に」


 祭服の一団に向かい呼び掛けた皇帝に、代表らしき男が応えて前に進み出た。


「リアタフテ殿」

「はい」

「今回は我等の召喚状に応えてくれた事感謝する。私はこのアッテンテーターのヴィエーラ教代表で、ビショフと申す」

「いえ、とんでもありません。司=リアタフテです」

「早速だが、召喚状に記していた内容で、リエース大森林のミラーシの件から・・・」

「はい」


 俺はミラーシの件とルグーンの件、そして一応用意していたエヴェック引退後のサンクテュエールのヴィエーラ教の運営内容の説明をしたのだった。


「うむ。では、其の様に本部へも伝えよう」

「はい、お願い致します」


 ビショフは俺の説明を聞き終え、一団の者が記していた、会談の内容を確認し始めた。


(ルグーンの件については、やはり納得はしなかったが、此れ以上は国王と話して貰うしかないからなぁ)


 ビショフは確認した内容に問題が無かったらしく、皇帝へと挨拶をして、謁見の間から出ていった。


(そろそろ、良いか・・・)


「皇帝陛下、よろしいでしょうか?」

「・・・何だ?」

「実は、我が王からの親書をお持ちしたので、お納め頂きたいのですが」

「ふむ、おいっ」

「はっ」


 皇帝から顎で指示を受けたリネアールは、俺から書簡を受け取り、皇帝の元へと届けた。


「・・・ふんっ、あの坊主が、回りくどい事を」

「・・・」


 出発前に、国王が見せてくれた親書の内容は、トップ会談の申し込みだった。


(要は、アッテンテーターからの輸入品の価格の、見直しを求める為だが・・・)


 当然、其れを理解している皇帝は、不機嫌そうな様子で、親書へと視線を落としていた。


(窓の外の風景を見るに3階位で、壁は・・・、其処迄厚くは無いか・・・)


 俺は謁見の間の構造を確認しつつ、アイテムポーチに手を添えた。


(魔力の高そうな者は居ないが、フェルト曰く、アッテンテーター軍人は魔導兵器による戦闘が主体らしいから、魔力量イコール戦闘力では無いだろう)


 此処に着いた時から、俺への敵意を隠そうとしない皇帝に、緊急事態に向けての覚悟を決め、脱出の手段を考える。


「おい、小僧よ」

「はっ」

「貴様ごときの指図は受けぬと、あの坊主に伝えよ」


(あれ?帰してくれるのか?)


 皇帝の言葉に拍子抜けしたのも一瞬。


「其の首でな‼︎」


 皇帝がカッと目を見開き、青き眼光で俺を突き刺した瞬間。


「・・・っ⁈」


 其れに呼応する様に、壁際に控えていた軍人達が、武器を手にして構えて来たのだった。

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