第411話


「では司様、ルーナは・・・」

「あぁ。俺も話が終わったら戻るから、頼むよ」

「はい」


 此処は王都の監獄の入り口。

 ルーナと2人で居た俺は、国王からの呼び出しで、ルーナと一度別れ、城へと出発したのだった。



「召喚状ですか?」

「うむ。ヴィエーラ教よりのな」

「なるほど」


 エヴェックから聞いていた話で、ヴィエーラ教からの動きが有りそうなのは予想していたが・・・。


「アッテンテーター帝国に・・・、ですか?」

「・・・そうだ」

「・・・」


 珍しく表情に曇りが見える国王。


(まぁ、相手の狙いがイマイチ分からないからな)


 ヴィエーラ教から届いた召喚状は、このサンクテュエールの外交官ではなく、俺を直接指名したもので、其処に国王は懸念を示していた。


「ヴィエーラ教側曰く、ルグーンの一件だけでなく、ミラーシの長になったディアの主人であった司に、一度しっかりとした説明を受けたいとの事だ」

「はぁ」

「まあ、本意ではあるまい」


 国王の言う通りだが、其れにしても俺を狙って来た理由がハッキリとしない。


(この国の戦力を削ぐなら、ケンイチを呼び出した方が良いし・・・)


 ただ、その場合、国王は検討する事もなく突っぱねるだろうから、一応検討はしそうな俺を指名した可能性も有る。


(まぁ、俺はリアタフテ家の者だし、俺とケンイチの関係を知らなければ、実際に争いが始まった時に、戦力を削げる可能性も有るし・・・)


 ただ、万が一、俺が捕らえられても、ケンイチに対する人質としては機能しないのだが・・・。

 謁見の間の壁際に控えるケンイチへと、控えめな視線を横目で向けていると・・・。


「・・・あん?」

「・・・」


 即座に気付いたケンイチから、睨みを利かされてしまった。


(俺が失礼だったとはいえ、一応国王や他の貴族や役人達も居るのになぁ・・・)


 高まるサンクテュエールとアッテンテーターの緊張に、こんな短気な男が軍のトップで良いのかと不安になった。


「儂としては、司を派遣する事には賛成出来んが・・・」

「・・・」


 壁際に控える一部の貴族や役人から、決してよろしくない感情が込められた視線が、俺へと向けられているのは、此処に来た時から感じていたが・・・。


(要は、派遣に賛成する、リアタフテを良く思わない貴族が居るわけだ)


 現在、軍のトップであるケンイチが座っていて、リアタフテ家も跡取りの颯、その姉である凪も将来が約束された天才児である。

 それに加え、大量の上級魔石の入手やディシプルの港、クズネーツで作られる強力な武具や兵器の独占供給、そして最近ザストゥイチ島という、他国や組織から見放され放置されていた島を最初に解放し、見事サンクテュエールの旗を掲げる事に成功した俺。

 その様な事実が、国内の他の貴族には脅威であり、特に元からリアタフテ家と良好といえない関係の貴族からは、どうにかして失脚させたい相手なのだった。


(其処にエヴェックの件も加わると・・・)


 エヴェックのディシプルへの滞在は、結局一時的なものでは済まず、長期的なものになっていた。

 それというのも、引退し力を失ったエヴェックが王都で生活する事に、アンジュからの懸念が強く、俺へとそれとなく頼んで来たのだった。


(エヴェックは刃を救ってくれた人なのだし、保護する事は当然だしな)


 それ程に、王都のヴィエーラ教内の権力争いは熾烈らしく、現状、その事でも俺に対する風当たりは厳しいのだった。


(ただ、国王の表情から窺うに断る事は出来そうにない)


 それならば・・・。


「家族への報告と・・・、諸々の準備を迅速に済ませた後、出発致します」

「おお、そうか。行ってくれるか」

「ははあ〜、勿論でございます」

「うむ。うむ、流石儂の司じゃ」


 俺へと冷たい視線を向けていた者達に、誇示する様に声を高くする国王。

 連中は、俺が断れない事は分かっていたが、あっさりと任務を受け入れた事に、自身の耳を疑う様に、瞳をパチクリしながら、一目で驚愕していると分かる表情を浮かべていた。


(まぁ、無駄な時間を使い、弱みを見せる意味が無いからなぁ・・・)


 敵国と表現して問題無いアッテンテーターへと単身で乗り込むのだから、今迄の任務の中で最も危険なもので、現状、不測の事態に対応出来るか不安ではあったが・・・。


「儂も直ちに親書を認めよう」

「ははあ〜」

「なお、交渉については司に一任する」

「・・・」

「無論、決裂の場合は身の安全を第一に考え行動せよ」

「ははあ〜、ありがたき幸せ」

「うむ」


 まぁ、交渉も何も親書の内容が全てで、俺は其れに従い、逃走経路や術の確保を考えるだけだがな。


「では、準備が出来次第使いを出す。それ迄は家族とゆっくりと過ごせ」

「ははあ〜。では、失礼致します」


 俺は国王に応え城を後にし、再び、監獄へと向かったのだった。



「司様っ」

「ルーナ、待たせたな」


 俺が監獄の最下層へと到着すると、待っていたルーナが出迎えてくれた。


「あら?早かったのね」

「・・・フェルト」

「ふふふ」


 ルーナの待っていた監獄最下層。

 其の鉄格子の向こう側には、実に寛いだ様子のフェルトが居たのだった。

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