第401話


「あら?戻ったの?」

「あぁ・・・、あれ?」

「ああ、あの娘達なら買い物に出てるわよ」

「そうか」


 真田家隠れ家を後にし、やって来たのはフェルトの住む家。

 俺がアナスタシアとルーナの不在に、不思議そうな表情を浮かべると、フェルトは気付いて答えてくれた。


「ふふふ、夕飯を作ってくれるそうよ」

「なるほどな」

「ふふふ、私の食生活に信用が無いらしいわ」

「あぁ、それは当然だろうな」

「ふふ、失礼な反応ね」

「そうかぁ?」

「・・・ふふ。まあ良いわ」


 珍しく感情を感じさせる表情で、若干の不満を示したフェルトだったが、それ以上は追及して来なかった。


「それで」

「?何かしら?」

「2人の状態は、どうなんだ?」

「ふふ、そういう事。買い物に行ける位には悪く無いわよ」

「・・・」


 フェルトの答えに、何の反応も見せない俺。


(分かっていて、態と言っているのだろう)


 そんな俺の反応は、予測していたのであろうフェルトは、少し真面目な表情で、声色を低くし告げて来た。


「アナスタシアは不満でしょうけど、暫くは此処に通わせて」

「そんなに悪いのか?」

「現状そうでも無いわ。ただ、完治迄は程遠いわね」

「そうかぁ・・・」

「勿論、ルーナもね」

「分かったよ」


 2人の状態の話になってから、その口元の笑みが消えたフェルト。


「一つ言っておきたい事が有るのだけれど」

「何だ?」

「私の作った人工魔流脈は、万能では無いのよ」

「だろうな・・・」

「あの娘達は、ちゃんと其れを理解しているのかしら?」

「いや、まぁ・・・」

「貴方はちゃんと其れを教えてくれてるのかしら?」

「面目無い・・・」


 珍しいフェルトによる真っ正面からの圧に押され、あっさりと謝罪した俺。


(まぁ、アナスタシアは俺の仕事を手伝ってくれてるのだし、ルーナについても一緒にいる時間は俺の方が長いからなぁ・・・)


「・・・」

「何かしら?」

「いや、何でも無い」

「そう・・・」


 謝罪させられた事より気になったのは、フェルトが2人の状態について不機嫌な様相を示した事で、ルーナは勿論としても、アナスタシアについてもある程度の慈しみの感情を持っている事を感じ、俺は幸せな気持ちになったのだった。



 そして、翌日・・・。

 エヴェックからの書状を国王に届ける為に、王都へと来ていた俺。


「・・・うむ。ご苦労だったな、司よ」

「ははあ〜」


 書状を読み終え、落としていた視線を上げた国王。

 その表情は少し難しいものになっていた。


「ケンイチよ」

「はっ」


 壁際に控えていたケンイチは、国王に呼ばれ書状を受け取り目を通し・・・。


「どう思う?」

「はっ。魔導戦艦の方は順調に造船作業は進行していますので、問題無く対応出来るかと」

「そうか」


 ケンイチの言葉通り、以前見た感じでは、クズネーツでの作業は順調そうだった。


「おいっ」

「はいっ、何でしょうか?」

「お前も、暫くの間は余計な動きは取らず、大人しくアッテンテーターとの決戦に備えろ」

「はい、分かりました」

「ふふ、心強いものだな」


 俺とケンイチのやり取りを静観していた国王は、俺の返答に満足そうに笑みを浮かべた国王。


(子供達の為、此の国と目の前男に、勝利を与えるのが俺の役目なんだ)


 謁見を終え、城外へと来た俺。


「おいっ」

「え?・・・ケンイチ様?」


 後ろから掛かった声に振り返ると、其処には謁見の間で別れたケンイチが居た。


「陛下との打ち合わせは良いのですか?」

「あん?すぐ戻るに決まってるだろうが」

「はぁ・・・」


 孫が生まれてなお、この男は俺への態度を改める事はしなかった。


(まぁ、らしいといえばらしいし、今更、急に態度を変えられた方が気持ち悪いが)


「リール様への手紙ですか?」

「あん?そうじゃねえよ」

「では・・・?」

「お前、ポワンに会ったらしいな」

「ポワン?・・・え?」

「ザストゥイチ島に居たと、俺の部下から連絡が入ってるぞ」

「・・・ポーさん」

「昔からそんな風に名乗っているな」

「・・・」


 ケンイチに聞くとポワンはある年齢以上の武道を志す者にはかなりの有名人らしく、ケンイチの部下がザストゥイチ島に上陸した時に気付いたらしかった。


「でも、連合軍の軍人は気付かなかったんですね」

「ガキの集まりだからな」

「そうですか」


 それでも不勉強過ぎると、ケンイチは不機嫌そうに続けていた。


「アナスタシアとも?」

「ローズが赤ん坊の頃に会ったのが最後だからな」


 それなら、会った事が無いのも納得出来るかぁ・・・。


「やはり、かなり強いんですか?」

「まあな。一応俺の師匠みたいなもんでもあるからな」

「へぇ〜・・・」


 以前、ランコントルの道場でユンガーに、学院の講師だった事が有ると聞いたから、その時にでも教えられていたのだろう。


「まあ、師匠ってよりは、パーティの一員って方が、しっかりくるがな」

「なるほど」


 まぁ、呼び方も師匠では無くポワンだし、パーティのリーダーはケンイチだったらしいから、そこら辺はキッチリとしているのだろう。


「・・・」

「それだけだ、さっさと帰れ」

「は、はい・・・」


 自分で呼び止めておいて、ケンイチは話が終わると突き放す様にしてきた。


「家族とのんびり過ごせる時間は限られてるんだ」

「・・・っ」

「覚悟・・・、決めておけよ」

「はい」


 俺の目を見据えたのも一瞬。


「・・・ちっ」


 ケンイチはいつもの様に舌打ちを残し、俺に背をみせたのだった。

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