第378話
「目覚めたか?」
「・・・ブラートさん?」
「災難だったな、司」
「え、えぇ・・・」
目覚めた空間には見覚えが有り、ブラートに確認してみると、此処は以前グロームにやられた時に休んでいた宿との事だった。
(また、ゲンサイが用意してくれたのか・・・)
「まあ、良かったな」
「良かった・・・、ですか?」
「ああ。何度も眼球をやられると、視力が回復しない可能性も有るからな」
「あぁ、確かに・・・」
ブラートの言う通り、今回は以前の様に目を包帯で巻かれておらず、視界ははっきりしていた。
「グロームは?」
「うむ、司を倒した後は、何事も無かったかの様にしている」
「そうですかぁ・・・」
とりあえず、俺以外の人間が狙われ無かったのは良い事だが、奴は何が気に入らなかったのだろう?
「不思議な奴だな」
「えぇ・・・」
「殺そうと思えばいつでも殺せるのに其れはせず、司以外には興味も示さない」
「何が目的なんでしょう?」
「さてな?」
ブラートの言う事は尤もで、追撃すれば俺を殺す事は容易い事だし、ブラートもグロームから俺を守る事は出来ないだろう。
(でも、其れはしないし、かといって理由も示さない・・・)
ラプラス曰く楽園から追放された者は、守人と闘い続けているらしいし、グロームもそうなのだろう。
俺に仲間意識でも有るのだろうか?
(ただ、俺が守人と闘っていたのは、あくまで妄想の中だからなぁ・・・。ラプラスにでも聞いてみるしかないか)
「うう・・・」
「行けそうか?」
「えぇ、何とか」
俺は何とか身体を起こすのだった。
「時間はどの位経ちましたか?」
「まだ、1日だ」
「では、すぐ帰りましょう」
此処に来る時に家族に伝えた期間は、最長で1日の宿泊を予定していたので、通信石の貴重さを考えるといつ迄も休んでいる訳にはいかなかった。
「そうだな。アルティザンを呼んで来よう」
「ありがとうございます」
部屋の外へと向かうブラートに、感謝を述べた俺。
此方からアルティザンの所に向かって、グロームから再び落雷を喰らっては面倒というのは、ブラートも共通の認識だった様だ。
そうして、アルティザンと合流し、見送りに来たクロートからクズネーツでのルーナの飛行実験の許可を得た俺は、ブラートとアルティザンをディシプルで降ろし、屋敷へと戻ったのだった。
「あ、ご主人様にゃ」
「あぁ、ただいまアン」
「どうしたにゃ、愛人の所にでも泊まったにゃ」
「・・・」
「にゃはは」
「はぁ〜・・・、違うよ」
屋敷の玄関前、伸び始めた草を刈っていたアンは、俺を中々キツイ言葉で出迎えたのだった。
「そうにゃ、残念にゃ」
「そうかい」
アンが残念がるのは、アンの言った愛人とはアンジュの事で、俺がディシプルに宿泊していれば、アン好みの土産が期待出来たからだろう。
(愛人では無いのだがなぁ・・・)
アンに言わせればローズこそ正妻で、それ以外に何人真田家の妻に迎え入れても、其れは愛人に過ぎないとの事だった。
(一応、俺の奴隷なんだが、感覚としてはリアタフテ家のメイドだからなぁ・・・)
「そういえば、ご主人様?」
「どうした?」
「お父様がご主人様に伝えたい事が有るって言ってたにゃ」
「え?パランペールさんが?」
「そうにゃ。ローズ様に会いに来てたにゃ」
「へぇ〜・・・」
俺は珍しい来客に首を捻った。
パランペールはリールが引退する迄は、商会運営の手続き等で良く屋敷に顔を出していたが、引退以降リールが街に遊びに行く機会が増え、ローズから街の商人との手続き等を依頼される様になってからは、屋敷に来る機会は減っていたのだった。
「どうする、アン?」
「そうですにゃ〜ね〜・・・」
通常ならアンも連れて行くところなのだが・・・。
パランペールが屋敷来る回数が減った代わりに、リールが街へ行く時には同行者でアンを連れて行ってくれていたので、パランペールとも最近会ったばかりなのだった。
「まぁ、先にローズの所に行って来るから、考えといてくれ」
「にゃっ」
俺はアンの返事を背中に受けながら、屋敷の中へと向かったのだった。
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