第379話
「ごきげんよ、おじさま」
「やあ凪、ごきげんよう。司君も久し振りだね」
「ご無沙汰してます、パランペールさん」
此処はリアタフテ領、街のシャリテ商会。
俺はローズからパランペールの用件の内容を聞き、アンと凪を連れて訪問していた。
「あれ?颯は?」
パランペールは娘であるアンが部屋に来ていない事には触れず、此処に居ない颯の事を聞いて来た。
(アンはどうせつまみ食いと分かってるんだなぁ・・・)
「あぁ、補習なんです」
「補習?」
「おべんきょ、おべんきょ」
「へえ〜?」
「実は・・・」
凪は椅子に座り、足をバタバタさせながら応えたが、パランペールは要領を得ていなかったので、俺は今日の颯と凪の稽古の説明を始めた。
「なるほど、椅子に大人しく座っておく稽古ね」
「はい。凪は合格したんですけど、颯はグラン様と補習をしてて」
今日のグラン指導の稽古は、大人しく椅子に座っておく事。
颯も凪も、もうすぐローズと共に、行事に参加する事になる。
其処で席を立ったりするのは勿論、落ち着きなく視線を泳がせたりすれば、本人が恥を掻く事になるので、そうならない為の稽古が始まっているのだった。
「それで午前中、ローズに会いに行った時に会えなかったんだね」
「えぇ」
「あえたっ、あえたっ」
「ああ、そうだね。おじさんは嬉しいよ」
「えへへ」
パランペールに懐いている凪。
今日は同行出来なかった颯もそうだが、おっとりして優しい雰囲気のパランペールは、子供達に人気なのだった。
「それで、パランペールさん」
「ん?ああ、そうだね。本題に入ろうか」
「はい、お願いします」
「ローズの友達のルチルだったね。彼女の仕留めた小人族のナミョークの事だけど、伝手を当たって集めた情報だけど・・・」
ケンイチを通じた国王からの依頼で、ナミョークの身元についての情報収集を行っていたパランペール。
今日の用件は国王への報告を終え、俺にも一部情報を伝える許可を得てくれて、屋敷に顔を出してくれていたのだ。
「まず名はナミョークで間違い無く、年齢は23歳。10年前に既に小人族の郷からは出奔していたらしい」
「出奔ですか?」
「うん」
犯罪に加担しているくせに、名が本名なのは意外だったが、其れよりも出奔の方が気になり聞き返していた。
「理由って・・・?」
「盗みらしいね」
「盗みですか?」
「ああ。其れも魔法を使用してのね」
「他人を操ってですか?」
「いや、被害者に使用して、記憶の混濁を生み出していたらしいね」
「あぁ、なるほど」
確かにその方がバレる可能性が減るので、効率が良いのかもしれない。
「ただ、いつ迄も隠し通せる訳が無くという話らしいね」
「懸賞金は?」
「小人族は大雑把でいい加減な気質だからね」
「懸賞金は懸けていないと」
「ああ」
俺はパランペールの言葉に、ルチルの落ち込む様子が目に浮かんだのだった。
(まぁ、リアタフテ家と国からの報酬は有るからなぁ・・・)
「旅の最中にルグーンと出会った訳かぁ・・・」
「いや、そうじゃ無いらしいんだ」
「え?」
「ルグーンは小人族の郷にも顔を出していたらしい」
「それじゃあ・・・」
「ルグーンは過去に小人の郷に、ヴィエーラ教から派遣されていたらしいんだ」
既に郷に居る時に出会っていたルグーンとナミョーク。
そうなると、犯罪行為はナミョークの人間性によるものとしても、郷から出奔する事になったのは、ルグーンの手引きの可能性がある。
(何より、ルグーンはそんな昔から、4つの魔法を求めて準備をしていたのか・・・?)
「でも、ヴィエーラ教って、人族だけが信仰している訳では無いんですね」
「ああ、勿論。ヴィエーラ教には2つの会派が有ってね。1つは主流にして人族の多い『スヴャートスチ派』。もう1つは亜人の多い『エーレシ派』さ」
「スヴャートスチとエーレシ」
「ルグーンとナミョークはエーレシ派だったらしい」
「え?でも・・・」
「ああ。でも会派が違うからといって本部は一緒だからね。互いの会派で普通に交流は有るし、同じ教会で共に祈りも捧げるよ」
「なるほど」
俺の抱いた違和感に、即答してくれたパランペール。
どうやらヴィエーラ教の会派ってのは、会社の中の部署違い位の感覚らしい。
(そうで無ければ、ルグーンが俺の召喚や、ローズとの結婚式に関わっていたのが変だからな)
「ルグーンは人族なのに、エーレシ派なんですね?」
「ああ、珍しいタイプだね。ただエーレシ派の方が絶対数が少ないし、会派の中での昇格もし易いから、人族もそれなりにいるのさ」
「なるほど、そういう事かぁ・・・」
パランペールの言葉に納得した俺なのだった。
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