第354話


「な、何故じゃ‼︎」

「我が王はモナールカなどに非ず。エルマーナ様唯御一人です・・・」

「・・・っ」


 突如として現れたセーリオだが、其の発言はエルマーナの裏切りを知り、それでもエルマーナを守る為に其の身を賭した様だった。


「邪魔をしおって、愚か者が・・・‼︎」

「ぐっ・・・、ううう」

「これ以上無駄な時間は過ごさぬっ」


 ディアはセーリオを血縫いの槍で貫いた事に動揺する事無く、炎の蔦を操り血縫いの槍を抜きエルマーナへと狙いを定めた。


「其処で見ておれ、愚か者よ?」

「・・・っ」


 血縫いの槍で刺されたセーリオは、槍の効果は勿論、傷の深さも有り地面に倒れ身動き出来無くなった。


「・・・‼︎」

「・・・っ⁈ちっ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 俺がセーリオに気を取られた一瞬の隙。

 其の間に仮面の男は、俺の脇を擦り抜けていった。


「こ・・・、のぉ‼︎」

「・・・」


 俺は一拍遅れて、闇の翼に魔力を注ぎ、その後を追った。

 奴の狙いは2つだろうが、どちらで来るか・・・?


(ただ、エルマーナは救わせないっ‼︎)


 ディアには悪いと思ったが、俺はエルマーナへと腕を伸ばし狙いをその首に定める・・・。


「静寂に潜む死神よりの誘いゥ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 俺と仮面の男の詠唱はほぼ同時に感じられた・・・、然し・・・。


「っっっーーー‼︎」


 崩れ落ちるエルマーナ、自身の詠唱した光の霧に、光の装衣ごと翼を飲み込まれ、エルマーナに重なる様に墜落した仮面の男。


「・・・ちっ‼︎」


 俺の不可視の魔法は、奴の詠唱した光の霧に飲み込まれたのだった。


「・・・余計な事を‼︎」

「くっそぉ‼︎」


 消え行く霧に俺とディアは、仮面の男とエルマーナへ襲い掛かる。


「・・・っ‼︎」


 霧が完全に消えると同時、仮面の男は再び光の翼を広げ、エルマーナを抱えてルグーンへと飛んだ。


「御早く‼︎」

「・・・やらせるか‼︎」


 詠唱を始めたルグーンに、腕を伸ばし俺は狙いを定める。


(ちっ・・・、仮面の男が邪魔で・・・)


 俺は静寂に潜む死神よりの誘いをルグーンへと狙おうとしたが、狙っているのか仮面の男に其れを遮られた。


「・・・む‼︎」


 するとルグーンの近距離で九尾と遣り合っていたブラートが、ルグーンへと狙いを定めた。

 ブラートの放った雷の鞭が、ルグーンに到達した・・・、瞬間だった。


「・・・っ‼︎」

「・・・ぐっ⁈い、行きますよ‼︎」


 詠唱を完成させたルグーンは、自身へと到達した仮面の男とエルマーナを連れ、歪む魔法陣の中へと消えて行ったのだった。


「・・・逃したか」

「ブラートさん」

「すまんな、司」

「い、いえ・・・」

「残るは此奴らだな・・・」

「・・・ええ」


 主人に取り残されても、此方を見据えて臨戦態勢を解かない九尾達。


「退がっておれ」

「ディアッ」

「妾が仕留める」

「・・・」


 俺達に背を見せ、九尾達と対峙するディア。

 其の背中からは、有無を言わさぬ威圧感が漂っていて、俺達は手出し出来ぬまま、ディアにより九尾達が屠られるのを眺めるしかなかった。


「終わったか?」

「いや、まだじゃ・・・」

「えっ⁈あ、あぁ・・・」


 ディアの視線の先を見ると、地面に倒れたセーリオには、まだ息がある様子だった。


「傷薬で、大丈夫かな?」

「いや、治療でなければ難しいだろう」

「ブラートさん・・・。仕方ないレイノに一度行くか・・・」


 正直なところ、すぐにでも屋敷に戻りたかったが、このまま放っておく訳にもいかないだろう。


「ひ、必要・・・、ないっ」

「セーリオさん?」

「それより、ブラート・・・?」

「何だ?」

「エルマーナ様は?無事・・・、なのか?」


 セーリオはブラートに問い掛けながらも、其の双眸はあらぬ方向に向いていた。


「安心せよ、すぐに貴様と同じ所へ送ってやろう」

「ディア・・・?」

「ふ、ふふ、そう・・・、か。ご無事か・・・」

「ふんっ、もう未練はあるまい?」


 エルマーナの無事を知り、安堵の表情を浮かべたセーリオに、ディアは炎の弾を詠唱し狙いを定めた。


「お、おいっ」

「邪魔立てするでない‼︎」

「・・・っ⁈」


 制止しようとした俺へと、怒号を飛ばして来たディア。


「此奴は所詮、一族の裏切り者。王都へ連れても殺されるだけじゃ」

「・・・ディア」

「ふ、ふふ、貴様の様な半端者に、い、一族の掟を指導されるとは・・・、な?」

「言い遺す事は、其れだけか?」

「エ・・・、エルマー・・・」


 セーリオが、主君への忠義の心でも叫ぼうとしたのか?

 其の瞬間だった・・・。


「っ⁈があぁぁぁ‼︎」

「・・・」


 ディアの放った炎の弾は、容赦なくセーリオを飲み込み、其の身を焼き尽くしたのだった。

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