第353話


「・・・っ」


 素早くアイテムポーチに手を伸ばし、傷薬を取り出した俺。


「ちっ‼︎させ・・・、っ」


 蓋を開け様とすると、襲い掛かろうとするエルマーナだったが・・・。


「ふふ、無駄じゃ」

「・・・ぐっ‼︎」

「・・・ふんっ」


 マヒアラーティゴによる払いで其れを迎撃したディアは、エルマーナに冷たい視線を向けながら鼻を鳴らした。


「ぐぅ・・・‼︎」


 その隙に傷口に傷薬を掛けると、傷は塞がっていくが言い様の無い激痛が走った。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ〜・・・」

「あとは自分でやるが良い?」

「・・・っ、あ、あぁ‼︎」


 未だ地面に片膝をつく、俺の脇を擦り抜けて行くディア。

 目的を理解した俺は、傷薬の瓶を投げ捨てて、魔力回復薬を取り出し飲み干した。


「ふぅ〜・・・」

「ふんっ‼︎」


 深く息を吐いた俺の後方、アナスタシアを押さえていた九尾を散らしたディア。


「ぐっ‼︎」

「ふふ、すまんな?」

「デ・・・、ディア・・・、貴女っ」


 駆け寄ったディアは、足をアナスタシアの後頭部に着地させる。


「ほれっ、欲しいか?」

「ひ、必よ・・・、っ⁈」

「ふふ、遠慮をするでない?」


 後頭部に置いていた足でアナスタシアの顔をずらし、手にした傷薬を示したディア。

 アナスタシアが断り、自身のアイテムポーチに手を伸ばそうとすると、その手を足蹴にし払い、嗜虐的な笑みを浮かべながら、アナスタシアを見下ろしていた。


(仕様がない奴だなぁ・・・)


 ディアは模擬戦の恨みから、アナスタシアに子供染みた嫌がらせをしているのだろう。


「遊んでる場合か、ディア‼︎」

「ふふ、さっき迄地を這ってた者が」

「分かったから、お前はエルマーナを抑えろ‼︎」

「ふふ、指図するでない?」


 ディアに檄を飛ばし、俺は闇の翼を広げ上空へ翔ける。


「・・・っ」


 すると、しっかり後ろに張り付いて来る仮面の男。


「下に居て良かったんだ・・・、ぞっ‼︎」

「・・・」


 ネックレスを剣に変え、斬撃を振り下ろすと、男は白夜で迎え撃った。


「剣ッ‼︎」

「・・・っ」


 闇の剣を2本詠唱し、3刀流の型を取った俺に、仮面の男も対抗して同じ型を取って来た。


「ちっ・・・」

「・・・」


(回復が余計だったなぁ・・・)


 一度は後一歩のところ迄追い詰めたのに、完全に回復した様子に俺は無意識に舌打ちをしていた。


(流石に此の状況になってしまうと、闇の支配者よりの殲滅の黙示録を使用するのは躊躇するしな)


 俺は此の状況を作り出した張本人であるエルマーナと、ディアの闘いに視線を移した。


「・・・はぁ‼︎」

「ふんっ、無駄じゃ‼︎」


 互いに炎を纏わした尾で撃ち合う2人。


(力はほぼ互角だが・・・)


「此れでも喰らえ‼︎」

「ふんっ‼︎」


 今度は互いに槍を手にし、撃ち合った。


(力が互角なら、血縫いの槍を得物にしてる分、ディアの方が有利だろう)


「此れなら、どうじゃ?」


 ディアは掌に小さな魔法陣を詠唱し、其処から米粒大の爆ける火花を生み出した。


「ふんっ‼︎」

「喰うか‼︎」


 ディアは掌の火花をエルマーナへと、放ったがエルマーナは其れ等を躱したのだった。


「ふんっ、子供の花火遊びかっ‼︎」


 エルマーナは地面に落ちた火花を冷たく見下ろしながら、鼻を鳴らし悪態を吐くのだった。


「ふふ、さて・・・、な?」


 そんな子供なら即泣き出しそうな雰囲気も、ディアは笑みを浮かべながら流した。


「喰らえ・・・」

「・・・ふんっ」

「はぁ‼︎」


 宙に炎の弾を5発詠唱し、エルマーナへと放ったディア。


「無駄じゃ‼︎」


 エルマーナは其れ等を、炎を纏った尾で擊ち払っていった。


「ふんっ、串刺ししてやろう?・・・はぁ‼︎」


 魔法を決められなかったディアは、手にしていた血縫いの槍をエルマーナ目掛けて一閃・・・。


「愚かなっ‼︎」


 ただ、流石に其れを喰らうエルマーナでは無かった。

 エルマーナは何でも無い様に、其れを躱したのだった。


「・・・ふんっ、所詮は子供の仕事か?」

「ふふ、何とでも申せ?」

「ちっ、愚か者が・・・‼︎」


 魔法を躱され、得物を失ったのにも拘らず、悠然とエルマーナを見据えるディア。

 其の態度にエルマーナは苛立ちを隠さず、持つ手に力を込めて槍を構えた。


「逆に串刺しにしてやるわっ‼︎」

「ふふ、出来るかの?」

「舐め・・・、っ⁈」


 ディアの人を食った様な態度に、エルマーナが足に力を込めた・・・、瞬間だった。


「な、何じゃ⁈」

「ふふ・・・」


 突如として地面から、炎の蔦が生えて来てエルマーナの全身に絡み付き、捕らえたのだった。


「・・・⁈もしや・・・」

「ふふ、そうじゃ。種は先程、蒔き終えておる」

「ちっ・・・、ぐぅ⁈」

「ふふ、実に良い眺めじゃな?」

「・・・っ」


 エルマーナを捕らえた炎の蔦は、手足だけでなく、其の首にも巻き付いたのだった。


「ふふ、愚かなる一族の裏切り者よ?」

「・・・っ‼︎」

「其方に相応しい最期は、このまま失禁でも眺め、窒息させるのも良いが・・・」

「・・・」

「せめて・・・、う?」

「・・・っ⁈」


 何事かエルマーナにのみ聞こえる声で告げたディアは、再び一本の炎の蔦を生やし、エルマーナの背後に落ちていた血縫いの槍に巻き付け構えた。


「・・・」


 諦めた様に双眸を閉じたエルマーナ。


「・・・っ‼︎」

「行かせるか‼︎」

「・・・っ」


 鍔迫り合いの力が抜けたのを感じ、エルマーナを助けに行こうとした仮面の男の前に立ち塞がる。


「此れで・・・、終わりじゃ‼︎」


 其の背にディアの怒号が聞こえた次の瞬間。


「ぐうぅぅぅ‼︎」

「な・・・」


 聞こえて来たのは男の悲鳴と、ディアの漏れた様な呟き。


(男・・・?)


 俺が不自然に思い地上へと視線を向けると・・・。


「な・・・、セーリオ⁈」


 其処には血縫いの槍に貫かれ、セーリオが倒れていたのだった。

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