第351話


「どういう事だ・・・、お前は?」

「其れは良いではないですか?」

「ば、馬鹿かっ‼︎・・・っ」

「ふふふ、非道い方だ」


 ルグーンが何でもない風に応えた内容に、俺は即反論したが、急に声を張り上げた為、口角から頰に血が伝っていった。


「ふふふ、まあ無理はなさらず?」

「・・・ぐっ」

「私の事は何れ再会した時にでも・・・」

「な、何を・・・」

「ああ、そう言えば再会はあり得ませんかねえ。私と真田様では、終焉後向かう場所が違うでしょうしねえ」

「・・・っ」


 内容はともかくとして、どうだろう?


(此奴は本当にルグーンなのか?)


 確かルグーンの遺体は自害後王都に移され、ヴィエーラ教からの引き渡し要請も国王は断り続けていた筈だ。


(此奴は飛龍の巣で会った男と同一人物だとして、ルグーンの遺体は其の時まだ王都にあった筈だし、もし盗まれたとしたら何かしらの連絡は有るだろう)


 国王が部下の失態を、俺に隠す可能性は勿論ゼロでは無いが・・・。

 ただ、そうだとしても次に浮かぶ疑問は、一度死んだ人間を生き返らせる方法が有るのかという事だった。


(魔法ではまず無理だからなぁ・・・)


 死者を復活させる魔法。

 勿論、此の世界に来てから一度も聞いた事が無かったし、自身でも大魔導辞典に記そうと思った事は無かった。


(霧で魔法を吸収した時だってあの苦痛なのだ、命を与える魔法など使用すれば、自身がどんな事態に陥る事か・・・)


 実験を考える事もしたくなかった。


(そうなると此奴が別人という可能性だが?)


 其の特徴を感じさせない相貌は間違いなくルグーンのもので、立ち振る舞いや口調や口癖など変わりない様に感じられた。


(唯一の違いと言えば其の声色位か?)


 こうして素顔を晒されると、耳障りな其の声以外に、以前との違いは感じられなかった。


「ふふふ、どうかされましたか?」

「・・・さあな?」

「真田様にそんな風に鋭い眼光を向けられると、私など蛇に睨まれた蛙の様なものですよ」

「なら、降参でもするんだな?」

「ふふふ、其れは・・・、有り得ませんよ?」


 仰々しく首を振り、肩を竦めてみせたルグーン。

 其の憎々しい動きは、確かに以前の此の男のものだった。


「そういえば狐の話でしたねえ」

「・・・」

「真田様は有史以前の悠久の刻を遡った昔、楽園からの者達が、初めて此のザブル・ジャーチに降り立った時の事はご存知無いとの事ですが?」

「あぁ、当然だろ?」

「ええ、まあそうですねえ。其の時に此処に来た者には、エルフ族や魔人族、小人族にドワーフ族、其れに其々の獣人族等の亜人達が居たのです」

「・・・」

「真田様は其の中で最も多かったのは、どの種族だと思いますか?」

「知らんな」

「ふふふ、残念です」


 吐き捨てる様に応えた俺に、ルグーンは本当に残念そうな表情を見せた。


(鬱陶しい奴だな・・・。多分、獣人族だろうが・・・)


「まあ良いでしょう。答えは魔人族です」

「・・・」

「ふふふ、意外でしょう?彼の一族は楽園では多数派なのですよ。次でエルフ族、最も多そうな獣人族達は複数の種全てで、やっと3番手だったのです」

「・・・」

「まあ、元々生殖機能に優れた種族でしたし、此方に降りて彼等は、他の種族に対して数的優位を確保する為、多数の子孫を残し続け、現在では人族と並ぶ多数派ですが・・・」


 ルグーンの語った内容は、確かに意外なもので、魔人族が多数派だったという事にはかなり違和感が有った。


(ラプラスみたいな連中が大量に降りて来て、よく世界が滅びなかったなぁ・・・)


 まぁ、魔人族全てがラプラスと同等の力が有る訳では無いだろうが・・・。

 ただ、其れを別にしてもルグーンの語った内容には、1つ大きな疑問が有った。


「何故、獣人族は楽園で多数派を目指さなかった?」

「ふふふ、そうですねえ・・・。その通りです」

「・・・っ」

「ふふふ、其れは此のザブル・ジャーチを創造主・・・、つまりは神がお造りになった事も、関係しているのですよ?」

「何だと⁈」

「ふふふ、やはり気になるでしょう?」

「・・・ちっ」

「まあ、でも其れはまた別の話ですし、真田様が魂に還られた刻にでも、お聞きに行って下さい」


 暗に俺が此処で終わりを迎えると、告げて来るルグーン。


(お前の不快な声色に付き合ってやってるのは、此の窮地を脱する術を探す為なんだよ・・・‼︎)


「まあ、現在多数派になった獣人ですが、其の中でも圧倒的に少数派な種が居るのです?」

「そうかい・・・」

「ふふふ、其れが狐の連中です」

「ふんっ」

「・・・っ」


 ルグーンの言葉に、エルマーナが鼻を鳴らし苛立ちを示す。


「ただ、狐はそもそも起源種の者達や、歴史を語り継が無かった創造種の者が獣人種に分類しているだけで、其れ等とは全く異なる存在なのでさが」

「な・・・?」

「当然でしょう?そうでなければ、ノイスデーテを継ぐ事など出来ないのですから?」

「・・・っ⁈」

「ふふふ、リアタフテに入った真田様ならご存知でしょう?」

「・・・知らんな」

「ふふふ、其れは残念」

「・・・」

「まあ、良いでしょう。初代ノイスデーテが、聖女と呼ばれる女性だったのは、ご存知ですか?」

「知らん」


(嘘だ。ラプラスから聞いて既に知っている・・・)


 ただ時間稼ぎも含め、新情報も期待して此奴に語らせる事にした。


「そうですかあ・・・、やはり放蕩者のリアタフテは、伝承者としての能力に欠けていたのかもしれませんねえ」

「・・・」

「真田様の聖女のイメージはどういうものですか?」

「さて・・・、な?」

「ふふふ、つれない方だ。それでは、私奴が・・・、高潔にして、気高く、尊い存在」

「・・・」


 ルグーンの並べた言葉は、概ね俺と同じものだった。


「そして・・・、純潔の乙女でしょうか?」

「・・・」

「ふふふ。そうなのですよ、初代ノイスデーテは残された歴史の中では、未婚でパートナーを持たない女性なのです」

「・・・っ⁈」

「ふふふ、不思議ですねえ?」

「・・・」

「1つ目の謎は人族にしか使用出来ない魔法を狐が継いだ事。2つ目は初代ノイスデーテに子を生す相手の居なかった事」

「・・・」

「でも、出来たのですよ初代ノイスデーテに、其の様な相手が・・・」

「・・・」


 何も不思議の無い事を、溜めに溜めて告げて来たルグーン。

 ただ、続けた言葉に俺は自身の耳を疑う事になった。


「狐の魔獣ですが」

「な・・・⁈」

「ふふふ、繋がりましたねえ?」


 ルグーンは衝撃の事実を、厭らしい笑みを浮かべながら告げて来たのだった。

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